大衆食堂。
辞典によると「値段が手ごろで庶民的な料理を提供する食堂」のことを指すらしい。
青森県には約100年続く大衆食堂「百年食堂」が何軒もあります。
100年続くためには「戦争」と「バブル」という2つの大きな山を乗り切らなければならず、
実はこれってけっこう凄いことだったりします。
弘前市にある百年食堂の一つが”三忠食堂本店“。
今の御主人のお婆さん(明治26年生まれ)が16歳で嫁いできたとき、
既にこの店をやっていたというので、百年を優に超える歴史を持っています。
初代は盛岡から弘前にやってきた黒沼他人治郎さん。
和徳町で屋台のそば屋を開いたのが始まりでした。
二代目・忠治郎さんの時代になると弘前城の桜祭りに店を出すようになります。
三忠食堂の看板とお化け屋敷とオートバイサーカスは桜祭りには欠かせません。
三忠食堂本店の名物と言えば”津軽そば”。
初代・他人治郎さんが盛岡から弘前にやってきたとき、
この地の人に作り方を教わったもので、
以来四代100年の間この製法を変えることななく、
「こういう風に先代から教わった」ということを大事に守り続けています。
御主人に”津軽そば”の作り方を聞いてみると、
「自分はこういう風に教わったが、それぞれ作り方は違うと思う」とした上で、
丁寧に教えてくれました。
①鍋にお湯を沸かし、ゆっくりとかき混ぜながらそば粉を入れそばがきを作る。
②このそばがきを冷水に浸けながら一晩寝かせる。
③そば粉と大豆粉を混ぜ合わせ、これを寝かせたそばきに練り込む。
④十分にかき混ぜた、これを製麺する。
⑤製麺したものをさらに一晩熟成させる。
⑥十分なお湯で茹でる。
ここですぐ食べると「煮立ての津軽そば」、
三忠食堂本店の場合これをさらに寝かせておくため、
独特の食感の「煮置きの津軽そば」になります。
“津軽そば”の製法はさまざま伝えられており、
大豆を使うのが共通した特徴ですが、
三忠食堂本店では大豆をすりつぶした大豆粉を使いますが、
炒った大豆粉を使うもの、大豆を茹でてすり潰した呉を使うもの、呉汁を使うものなど、
確認できるだけでもいくつもの方法があります。
三忠食堂本店の津軽そばには、
ダシと醤油に昆布を1枚入れただけのシンプルなつゆが使われ、
そばもつゆも自己主張をしないため、
逆にその味わいをしっかりと感じることができます。
強いものを集めてその良さを際立たせようとする
現在の食文化の主流に対するアンチテーゼのような食べ物。
なぜか無性に食べたくなる弘前のソウルフードの一つです。
津軽そばを堪能しながら御主人や奥さんと話していると、
郷土料理繋がりでけの汁へと話が変わり、
実は和徳町を”けの汁”発祥の地とする説もあり、
6月9日の稲荷神社の宵宮でこれを振る舞っていることを教えてくれました。
調べてみると確かに”けの汁”のルーツには諸説ありますが、
「和徳城落城の前、兵士達が残りの食料を細かく刻み、大鍋で煮て食べたことに由来する」
としているものもあり、
和徳町の有志が地域活性化のためにあえてこれを「盲信」することにしたそうです。
今年も6月9日土曜日、和徳稲荷神社の宵宮で、
午後6時30分から限定300食ですがけの汁が無料で振る舞われるそうです。
by YOSHIHITO
掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。