本州最北「下北半島」にある佐井村には、漁師によって伝承されてきた全国でも珍しい「漁村歌舞伎」があります。
明治中期、上方から村内の矢越地区を訪れた地回りの役者 中村菊五郎・菊松夫妻に、娯楽や冬の楽しみのない暮らしを癒すために歌舞伎指導を懇願したのが始まりで、その後2年に渡り伝習し、一役を一家で担う世襲制で受け継がれてきました。
当時は個人の家や網倉庫などで盛んに演じられていたそうです。
かつて役者が多かったころは上演する演目も多く、各戸持ち回りで2日間に渡り開催するほど、自分の家に順番が来るのが待ち遠しくとても賑やかだったそうです。
歌舞伎は村内の福浦地区、矢越地区、磯谷地区に伝えられましたが、現在は福浦地区と矢越地区のみ伝承されています。
矢越地区の歌舞伎は昭和20年代後半に一度途絶えましたが、昭和52年に復活し、青年団や若者会へ継承されました。しかし、後継者不足により衰退の一途をたどり再び消滅の危機にさらされましたが、若者会の退会者や歌舞伎の好きな人が年齢に関係なく自由に参加し、平成12年に「矢越芸能保存会」を発足して、現在に至っています。
福浦地区も同様で、集団就職や出稼ぎで多くの若者が外に出ていった昭和40年代の初めには、演じ手が少なくなって途絶える寸前まで追い込まれたそうです。そのことをきっかけに集落で保全について検討を行い、昭和46年に「福浦芸能保存会」を発足して、歌舞伎の台本化や演目の復活にも精力的に取り組んできました。
歌舞伎は当初はすべて口伝で継承され、資料となるようなものはほとんど存在しなかったそうです。
セリフはすべて役者それぞれの頭の中にあって、役柄は一家族、一人ごとに割り当てられているので、一度覚えてしまえばあとはずっと同じ内容を演じます。
慣れた役者は自分のセリフや動きを覚えているので、役者が揃えばすぐにでも演ずることができるんだそうです。
とはいえ、良い演技を見せるためにはもちろん稽古は必要で、上演予定日の1,2週間前から稽古を行います。昼の仕事が終わった後みんなが集まり、合わせ稽古を当日まで行い息を合わせ本番を迎えます。
歌舞伎で使用する楽器も古くから伝わる様式を守っています。
主なものでは、太鼓、ツケ(拍子木)、笛、ガンガン(一斗缶)、三味線がありますが、三味線は弾ける人が居なくなり今は三味線がないまま上演しているそうです。
役者と裏方、合わせて約15人で演じられる演目は、主なものでは、「太閤記」「一ノ谷嫩軍記」「義経千本桜」「忠臣蔵」の三段目、五段目、六段目、「弥次喜多」「白浪五人男」などがあります。
3月22日には春の特別上演が行われ、福浦地区と矢越地区両方の歌舞伎を鑑賞してきました。
威勢の良い笛や太鼓の拍子とともに幕が開けると、青・黒・金の派手な衣装に身を包んだ一人の役者が下手から飛び出し、舞台を清める三番叟が軽快に始まり漁村歌舞伎は幕を開けます。
福浦では、「一ノ谷嫩軍記」第一幕と第三幕が、矢越では、「絵本太閤記第十弾 夕顔棚の場」と「白浪五人男『稲瀬川勢揃いの場』」が上演され、昨年の倍ほどの観客に、演者も力が入っていたようです。
毎年春祭りに合わせて上演される歌舞伎は、漁村に春を呼ぶ歌舞伎とも言われています。
度重なる存続の危機を乗り越えてしっかりと受け継がれている伝統芸能。
ぜひ来年の春も観に来たいと思います。
<お問い合わせ先>
特定非営利活動法人佐井村観光協会
TEL:0175-38-4515
FAX:0175-38-4514
by きむにぃ
掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。