津軽地方は経済や文化はりんごを中心に回っているかのようです。りんごが不作だった次の年には飲食店からは客が減り、自動車の売上も伸び悩む…という噂もちらほら。
果実は生鮮品として出荷されるだけでなく、ジュースやジャム、アップルパイ、シードルなどに姿を変えて産業を盛り上げています。
その他、りんごを題材にした小説や映画など、文化方面でもりんごが活躍しています。
経済と文化を左右する「りんごのチカラ」
雪深い地域の農業だからでしょうか?それとも、そもそも手のかかる作物だからでしょうか?
とにもかくにも、りんごを育てて出荷するためには、特殊な道具があれやこれやと必要なのです。
例えばりんごの木を剪定する「剪定鋏」は専門の鍛冶屋の仕事。
出荷の際に使われる「木箱」やりんごの色付きを良くするために樹上のりんごにかぶせる紙製の「袋」なども専門業者が製造を請け負い、「一企業」として成立するほどのマーケットの大きさを誇ります。
実はそれらのりんご専用の道具たちの製造現場を眺めることで、りんご農家ならではの暮らしぶりを垣間見ることもできるのです。
中古市場も発達!? 出荷用の木箱の市場規模がスゴイ。
この木製の箱は、りんごを市場へ出荷する際には欠かせない、りんご農家にとってのマストアイテム。1箱におよそ20kgのりんごが入ります。
素材として使われるアカマツの木は、りんごを赤く色付かせる効果があるともいわれています。
津軽地方には、りんごの木箱専門の製造業者が何社もあり、りんご箱のニーズは終始途絶えることがありません。
1973年創業の「青森資材うばさわ」では、年間40万箱を製造し、同じく40万箱を中古で流通させているとのこと。中古品は木箱の程度によってランク分けされ、価格が決められるのですが、験を担いで新品の木箱しか使わない農家も少なくないのだとか。
組み立てはすべて手作業。1日に100個以上を組み立てる熟練の職人がフル稼働して対応しているということですが、それでも需要が供給を上回り続けるという状況が続いているため、注文を断らなければならないことも少なくないとか。
ちなみに同社系列のセレクトショップ「monohaus(モノハウス)」では、りんご箱をインテリア用に販売もしています。
monohaus 板柳町福野田実田30-5
0172-72-1321
鉄の塊をハサミに変える執念とテマヒマ。
りんご栽培技術の中でも最も大切なのが、りんごの枝を伐採し、樹状の形を整える剪定作業です。りんごの美味しさの鍵にもなる日光が中心部まで入るようにしたり、良い実を付けない枝を切り落としたりしたり、余計な枝を伐採することで作業効率を図ったりすることが目的です。
毎年1月から2月にかけて、豪雪の園地で剪定作業に励むりんご農家にとって欠かせないのが、この剪定鋏。
三國 徹さんは、1887年に創業した「三國打刃物店」の五代目。津軽型の剪定鋏は、柄や刃の部分はもちろんのこと、ネジに至るまですべて鉄の固まりを叩いてつくるため鋏だけに集中して作業しても、1日で1丁仕上げるのがやっととのこと。
その特徴は、刃とそれを受ける「カラス」と呼ばれる部品との間に微妙な角度を付けるという点。
そのため、使い込んでも切れ味が落ちることがないのです。
津軽型の剪定鋏は全国の果樹鋏の手本となっているのだそう。
三國打刃物店 弘前市茂森町170-3
0172-33-2202
りんご農家の雪中作業用長靴がカワイイ件。
ゴロンとしたフォルムが愛らしい…。その名は「ボッコ靴」。
天然ゴム100%、1つ1つ手作業で作られます。保温力に優れているため、雪深い津軽の冬のりんご剪定作業には欠かせない暖かさと耐久性を兼ね揃えた防寒靴です。
厚手の靴下を履いていれば、実に暖かくて快適至極…な、このステキ長靴は、かつてはりんご農家や雪の中で狩りをするマタギたちの愛用品でした。
…が、大量生産時代の影響からか30年以上前にその生産はストップ。その復活に成功したのが、黒石市横町商店街で靴屋を営む「Kボッコ」の工藤 勤さんです。
運良く残っていたのは、工藤さんの先代が使っていたボッコ靴の型だけ。
復活を志した当初は材料もない状態でしたが、往年の愛用者であるりんご農家からの強い要望に応えて材料を調達し、当時の職人さんの記憶と経験を頼りに微調整を重ねつつ…と努力を重ねて、復活したのは2005年のこと。
型紙に合わせてパーツを切り出し、それらを丁寧に接着剤で圧着しながら一足のボッコ靴を仕上げていきます。
ボッコ靴「半長」
ボッコ靴「ロング」
お値段は、「半長」が14,500円で、「ロング」が16,000円。
サイズは22.0cm~28.0cmまで5mm刻み(27.5cmと28.0cmはプラス1,000円)。
雪深い、真冬の津軽地方を旅する前に、一足揃えておくと気分は間違いなくアガります。
Kボッコ 株式会社 黒石市横町1-2
0172-52-2181
WEBサイトはこちら
宇宙でも活躍する構造を持つ竹籠。
例年8月ごろから始まるりんごの収穫。この竹籠は収穫作業を陰ながら支えています。
長時間の作業の負担にならないその軽さ、籠が当たってもりんごが傷つかないしなやかさ、りんごの重さをしっかりと支える頑丈さ。そんな機能が、可愛らしい楕円のフォルムの中に隠れています。
作り手は、岩木山麓の愛宕地区に工房を設け、奥さんと娘さんの3人で製作を続ける三上幸男さん。
軽さの理由は、材料として使われる笹の一種ネマガリダケ。八甲田山や岩木山に三上さん自らが分け入って調達、しっかりと乾燥させてから表面の皮の部分のみをナタで剥いで編み始めます。
頑丈さを支えているのは、六角形の目を作りながら編み上げる「六ツ目編み」という手法で、国際宇宙ステーションの部品にも応用されています。この昔ながらの手籠に絶大な信頼を寄せるりんご農家が多いのも頷けます。
工房に併設された展示室では手かごの販売も。りんごの収穫に使う頑丈なものは1個2,000円程度。
三上幸男竹製品販売センター 弘前市愛宕山下71-1
0172-82-2847
朝の8時から作業を続け、午後4時には仕事を終えた後、三上さんは必ず近所の温泉でひとっ風呂浴びるのが日課なのだとか。お風呂セットを入れるカゴは竹製じゃなくてプラスチック製のほうが使い勝手がよろしいようで(笑)