陸奥湾の南東端、野辺地湾の奥に位置する野辺地湊は、藩政期には南部藩随一の商港として栄えました。南部藩領の足尾銅や農海産物が野辺地湊を経て江戸や大阪に運ばれていたためで、湊には千石から千五百石の船がひしめき、町には堂々の大店をかまえる豪商が軒を並べていたと記録されています。
その豪商の旦那衆が毎朝食べていたのがカワラケツメイの「茶がゆ」です。
カワラケツメイとは、薬効が「決明(エビスグサ)」に似ていて河原に生えるからこの名が付いた一年草で、これを刻んで乾燥させたものは生薬「山偏豆(さんぺんず)」として利尿促進や滋養強壮に用いられます。
その昔「千曳まで来れば茶がゆのすする音がする」と言われるほど、野辺地には商家を中心に茶がゆを食べる習慣がありました。高級茶をいくらでも集められたはずの裕福な旦那衆が、なぜカワラケツメイの茶がゆにこだわったのか?実に不思議です。
最近の科学誌に「カワラケツメイの抽出物『カシアポリフェノール』に抗肥満効果がある」という研究報告が掲載されていますが、もしかしたらここにその理由があるのかもしれません。
お米の量の6~10倍のお茶でコトコトと炊きあげるだけのこの茶がゆは、家庭で簡単につくることができますが、同じ食べるなら野辺地町で本場の茶がゆを召し上がってみてはいかがでしょうか。
JR野辺地駅前の「まつうら食堂」では、今でも昔ながらのおいしい茶がゆを食べることができます。「胡麻塩をまぶし、ふうふう吹きながらすするのがおいしい食べ方」とはご主人の弁。ホタテの刺身や貝焼き味噌がついた「茶粥定食」(1,500円)は前日までに予約すればできたてを食べられます。
ほんのりとした甘さに素朴な香り。身体にやさしいカワラケツメイの茶がゆは、現代の旦那衆にも食べてほしい自然派の健康食なのです。by義人
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