全国の生産量の約半分を占める青森りんご。日本一のりんご産業を支えるりんご農家はおおよそ1万7千戸。冬場のごく短い期間を除き、朝から晩までりんご園で働き続けます。
そのりんごづくりに欠かすことのできない道具が「りんご脚立」。
今でも「りんご脚立」を作り続けている岡野建具(弘前市)のご主人によると、かつては、適度にやわらかく丈夫で腐りにくい津軽特産のヒバ材が用いられていたそうですが、最近主流となっているのは軽い桐材。途中、安くて軽いアルミ製が台頭したものの、木製の良さが再び見直されるようになり、最近は多少高くても桐製脚立を選ぶ生産者が増えているのだそうです。
(↓左が木製・・・黒石式の7尺6段、右はアルミ製)

■木製脚立の良さ
木製の良さはたくさんあります。ひとつめは冷たくないこと。寒い季節の早朝や夕方でも、よく使う女性達から体温を奪うことはありません。
次にグリップ。雨の中でも木そのものが持っている吸水性と凹凸でスリップを防ぎ、農家の足元をしっかり支えてくれます。
さらにやさしさ。りんご脚立は、たわわに実ったりんごの枝を押しのけながら、枝の内側に立てなければならないこともしばしば。樹体にやさしい木製なら、実も枝も傷つけにくいのでちょっと安心です。
男達が気にするのは「剪定鋏」や「剪定鋸」の損傷。アルミの場合、うっかり落としたりぶつけたりして刃こぼれを招くこともありますが、木製ならその衝撃をやさしく吸収してくれます。
そして何度でも繰り返し直して使えること。岡野さんのところには、親の代に使っていた脚立の修理を頼みに来る人も多いと聞きます。アルミ製はこうはいかないでしょうね。
■弘前式と黒石式。そして南部式。
意外と知られていないようですが、津軽の「りんご脚立」には、「弘前式」と「黒石式」があります。その違いは段の数。同じ高さの脚立でも、足場となる横っこ(よごっこ)の本数が異なります。
「弘前式」は6尺に4本の横っこ。一方「黒石式」は横っこが一本多い6尺5本となります。7尺なら、「弘前式」は7尺5本、「黒石式」は7尺6本です。「弘前式」と「黒石式」の境界は、津軽平野を縦に流れる「平川」。樹の仕立て方や地形に違いがあったのでしょうか。平川から西側が「弘前式」、東側が「黒石式」となっているそうです。
一方、南部地方の脚立は足が一本少ない「3本ばしご」です。枝が混み合う樹の内側にも「はしご」を入れやすくなりますし、軽くて持ち運びやすいのも長所です。推測の域を出ませんが、ここにも仕立方法や使用環境の違いがあったのでしょう。
【追加】3点支持は荷重が安定する理にかなったもので、特に地面がフラットじゃないときに威力を発揮するようです。(コメントを寄せていただきました。)
(↓中央が南部式。周りには弘前式や黒石式がどっさり。)

なんだかマニアックな内容になってしまいましたが、これからの季節にますます重要となる「りんご脚立」ご紹介しました。
by義人