みなさんが人に紹介されて「行ってみたいな」と思う居酒屋って、どんなものでしょうか。
お刺身が新鮮、安くておいしい、雰囲気がある等々、酒飲みの心をくすぐる言葉はいくつもありますが、「行きつけの店」というというのは、紹介する側が大人でありかつ酒飲みであることを表現し、それであればこそ受ける側の琴線をかき鳴らす、双方納得の高い説得力を備えた一言といえるのではないでしょうか。
こんなことを書いたからといって、私が酒飲みであるなどと宣言するつもりは毛頭ないのですが、今回紹介する『夢地』さんは、居酒屋でありながらも私が一人でも訪れることがある、数少ない「行きつけ」のお店です。
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初めて訪問したのは優に10年を超えるほど前で、当時は別の場所にお店があったのですが、15人も入れば一杯になる程良い大きさで落ち着ける雰囲気、美味しい食べ物にお酒、何より愉快なマスターと女将さんの人柄が心地よく、私が弘前を離れてお店が移った今でも、折りにふれ訪れ続けています。
この日は2軒目の訪問だったのであまりたくさんは食べられなかったのですが、数あるメニューの中から津軽らしいものを中心に紹介しましょう。
まずは「高菜の葉包(くる)み」と「ナスのしそ巻き」。
前者は高菜と大根を別々に漬け込み、後で大根と酒粕を高菜で一つ一つ包んでさらに漬けたもの。夢路さんの漬物はすべて、女将さんが自分で漬けた手づくりのものですが、漬物を家で作ることが少なくなった今では、なんとも懐かしい味。
後者は、ナスに味噌を塗って、しその葉で包んで焼く津軽の郷土料理。味が濃いので、ご飯とお酒、どちらにもよく合います。
…と、そういえば”しそ巻き梅干”といい、津軽には”包む”文化が発達しているフシがありますね。
「食べちゃえばおんなじ」とは考えず、見た目にもきっちり美しく仕上げる仕事ぶりは、例えば着物の補強と保温から始まったこぎん刺しの美しさにも通じる、いかにも津軽らしい気質の表れのようにも思えます。
そして続けて出てきました、津軽の郷土料理の定番、「けの汁」。
なるほど、夢地さんのものは大豆がそのまま入ってるのですね。我が家はすりつぶして入れる派ですが、そこは家ごとの違い。これもおいしい!です。
最後に、冬の津軽には欠かせない「たつ刺し」(タラの白子の刺身)。”刺身”とはいうものの、通常は湯引きしてポン酢などで味付けをします。
いや~、日本酒にこれ以上合う食べ物がありますか、ってくらいに濃厚でうまい!
…そんなあれこれを味わいながら、「いつの間にかメニューが全部写真入りになったのですね」とマスターや女将さんに話しかけたところ、特に海外からおいでになったお客さんが、メニューの文字だけではその内容が想像できないのでこのようにしたのだ、とのこと。
それだけではなく、目が不自由なお客さんがお店を気に入ってくれたといっては点字のメニューを作ったり、あるいは近くのホテルに置いてもらっているお店のチラシを、きちんとそれぞれのホテルからお店までの案内図を載せるようにしているなど、いろいろ工夫しているのだと伺いました。
なるほど、一つ一つは「小さな工夫」と思えるかもしれませんが、お客さんの不便を敏感に感じ取って、こうやっていくつも積み重ねてきているというのは、きっとそのままお二人の人柄を反映しているのですね。
「美味しい」、「津軽らしい料理が味わえる」、「居心地のいい」…夢地さんを推薦する表現はいくつか浮かびますが、もっともふさわしいのは、居酒屋を表現するのには一見相応しくない、「優しい」という言葉なのかもしれません。
そんな夢地さんでは今日も、旅人も常連さんも、みなさんに楽しく過ごしてもらいたいと、愛嬌あるヒゲのマスターと明るい女将さんが待っています。
そして私はといえば、いつものようにふらりと訪れて時間を過ごし、いつものように気分良く酔って、千鳥足でお店を後にするのです。
by くどぱん!
居酒屋「夢地」 | |
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TEL | 0172-35-2281 |
時間 | 営業:16:30~24:00(水曜定休) |
掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。