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おこもりの夜

おこもりの夜

イベント・まつり | 2013-02-09 14:41

【What’s おこもり?】
広辞苑によると、「おこもりとは、神仏に祈願するため、神社や寺にこもること」とありますが、下北半島の佐井村牛滝に伝わる「おこもり」は、下北の冬の風物詩として放送されるテレビニュースの映像によると、真冬の夜更けに、地区住民が神社のお堂に集まり、「めしーっ!」「しるーっ!」と絶叫しながら、ひたすら「ご飯」や「汁」を食べ続けるという一風変わった独特の風習であることはわかるものの、実際の行事内容等については、佐井村内でも牛滝地区以外の村民にも、ほとんど知られていません。

そこで、少しでも「おこもり」の謎に迫りたいと、「おこもり調査隊」を編成し、牛滝地区総代にお願いして、1月15日のおこもり会場に同席させていただきました。
青森県立郷土館では、民俗学的観点からの調査研究を目的に、学芸員さんとスタッフが記録映像の撮影を行っていましたが、まるごとブログでは、古くから伝わる特色ある風習とそれを継承してきた地域の人々を青森ならではの魅力として、地域の方々や郷土館の学芸員さんから伺った話の内容を中心にご紹介します。

おこもりの夜
【佐井村牛滝】
下北半島西端のほぼ中央部に位置し、古い資料によると牛滝湊は、田名部七湊の一つとして、檜材の積み出しなどが行われていました。林産資源に加え、アワビなどの海産物も豊富で裕福な土地柄であったようです。現在の世帯数は40数戸。牛滝漁港が整備され、沖合漁業が主な生業として営まれています。
青森市中心部からは陸路約160kmで、車で約3時間半ですが、青森市と佐井村を結ぶ定期航路シイラインの寄港地の一つとなっており、航路利用の場合は青森市から約1時間となります。

【由来】
おこもりは、12月15日と翌年1月15日の年2回、集落の中心にある神明宮拝殿で行われます。百数十年前から続く伝統行事ですが、特に記録等は残っていないようです。
12月15日が願掛けで、1月15日は願いがかなった日と言われ、死んだ鯨が湊口を塞ぎ、船の出入りができなくなったことから祈願したという説と、不漁が続き食料がなくなったときに漁があるように祈願したところ、1月15日に鯨が港に寄ってきて、それを捕ることで救われたという説の二説があります。そして、男たちが祈願のため籠っている間、女が食べものを運んだことが由来と言われています。
おこもりの夜
【きまり】
大漁祈願等神事としての一定のきまりもあります。準備は当番制で、家の並ぶ順に1回につき2軒ずつが割れ当てられ、不幸がある家は当番からはずされるほか、参加者についても、各世帯から男性一人とされ、不幸があった家の者は二十七日が過ぎるまでは参加しません。
また、女性は参加できないものとされ、当番家と手伝いをする女性たちだけが拝殿に出入りできます。

【料理】
おこもりで食する料理は、白米、八杯汁(はちはいじる)、ぜんまいのからし和え、たくわん漬けの四品です。当番家と手伝いの女性たちが、おこもり会場の神明宮そばにある牛滝地区交流促進センターで作ります。
八杯汁は、いわしと昆布で出汁をとった味噌のすまし汁にシイタケとマイタケ、豆腐を加えて作る郷土料理で、おこもりでは50~60人分を想定して、概ね豆腐80丁を使って大鍋4つ分が作られ、米8升が炊かれます。

何故、この四品だけなのか理由は定かではありませんが、そもそも神仏に祈願するということで精進料理に類する料理のように思えるし、寒冷地の下北半島では、昔は米が貴重で御馳走であったからではないかとも思われます。

【本番】
神明宮では、当番家の男性が、拝殿にお供えをしたり、拝殿にある2つの炉の炭の燃え具合を見ながら参集者を待ちます。18時頃から人が集まり始め、当番家の男性は酒を出すなどしてもてなします。参集者は、車座になって酒を飲んで談笑したり、中にはトランプを楽しんでいる方もいて、皆和気あいあいです。
20時前後、子供たちが集落内を太鼓を叩いて歩き、準備が整ったことを触れ回ります。若者たちはセンターから料理を運び、手伝いの女性たちも拝殿に入ってスタンバイです。

今回現地に行くまでは、おこもりというのは集まった人たちが深夜までひたすら食べ続けるものだと思っていたのですが、実は交代制で一番膳から三番膳まであり、1回当たり25人程度が同時に食べはじめ、最後の一人がギブアップするとその時点で終了となります。
一番膳は、年配者が席に着き、若者が給仕役。二番膳は、若者が席に着き、年配者が給仕役、三番膳は、手伝いの女性が席に着き、若者が給仕役となります。
おこもりの夜

当番が一人一人に御神酒としとぎを配り、給仕役は御膳を配り席に着きます。神妙かつ緊張の時間が続き、お神酒が全員に回った後、当番が「それではみなさんお箸をとってください。」と声をかけるのを合図に、時間と空間が静から動へ一転。
皆一斉に怒涛のごとく食べ始め、お椀を箸で叩きながら「めし~っ」「しる~っ」と絶叫し、給仕役も「くえ~っ」「のめ~っ」と絶叫しながらご飯や汁のおかわりを次々と出し、椀が蓋で閉じられるまで延々と続きます。初めての人間は、私もそうでしたが、まずはどってんびっくりし、その後無性に笑いたくなります。

特に若者パワーはすさまじく、喰いっぷりはもちろん、顔や動作までかなりエキサイティングに盛り上がります。海の男の心意気、ガッツ、根性、男ぶりが発揮される瞬間です。
今回は、21時にスタートし約2時間にわたり激しい攻防が繰り広げられましたが、まさにあっという間の出来事でした。
おこもりの夜

写真は、蹲踞の姿勢で米櫃を持ち眼前まで迫りながら給仕する若者と、ちょっと勢いに押されながらも懸命に食べ続ける今回初参加の役場職員(おこもり調査隊地元案内担当)。左脇の下に米櫃の蓋を挟んだ姿に思わずシャッターをきりました。奥の方では子どもたちがおこもり修行中です。

説明が長くなりましたが、2013.1.15のおこもりライブ映像を御覧ください。
子どもから若者、年配者まで一斉に絶叫しながらのおこもりの様子は、動画で見てこその迫力と楽しさです。
http://www.aptinet.jp/marugoto/shousai.html?id=173

ちなみに、料理を作っていた女性たちに、牛滝に嫁いできたばかりの時に、おこもりを見てどう感じたかと質問してみたところ、みなさんいずれも「何事が始まったのかと腰が抜けるほど驚いて唖然とした」との答えでした。
また、若者数名にたくさん食べるこつを聞いたところ、全くの空腹状態ではなく、何か軽く食べて胃袋をアイドリングさせて臨んでいるとの答えも返ってきました。

おこもりの夜
今回のおこもりへの同席を快く許可いただいた坂井地区総代に、最後にお話を伺ったところ、「牛滝は、地域住民が皆仲良く助け合って生きてきたところであり、おこもりは、地域の一体感や絆を確かめ合う象徴としても守り伝えていきたい大切な伝統行事の一つである。また、県外の学校を卒業しても、地元に帰ってくる若者が多く、牛滝に愛着が深く頼もしい若者が多いのが牛滝の自慢でもある。」とのことでした。

おこもりを通じて、地域の伝統やコミュニティーを大切に守り育て、受け継いできた牛滝の人たちの温かさや、やさしさ、力強さを感じることができました。牛滝の魅力をもっと知るためにも、今度は夏に、定期航路のシイラインで尋ねてみたいと思っています。

by あぷよ(右上写真は冬の仏ケ浦です。)

掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。

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