「おばあちゃんの原宿」として知られる東京の巣鴨地蔵通り商店街とのなかほどに、とげぬき地蔵尊で有名な高岩寺がありますが、境内の横にある「高岩寺信徒会館」の入口には、なぜか大きなこけし灯ろうが3体、中には東北各地のさまざまな伝統こけしが展示されています。

こけし灯ろうや伝統こけしが巣鴨の高岩寺にあるのはどうして?・・・住職さんにお話しを伺いました。

平成22年のこと、都内のこけし愛好家のご遺族から伝統こけし約700本をお寺に寄贈したい、との申し入れがありました。これまでこけし愛好家や東北と特段の交流はありませんでしたが、ちょうど信徒会館の新規開設をすすめていたこともあり、受け入れる準備をしていたところに東日本大震災が発生しました。
当時、東北各地の温泉では風評被害で観光客が激減してこけしも売れず、工房が被災してこけしが作れなくなった工人も少なくない状況でした。東北6県に伝わる代表的な工芸品であり、東北の象徴でもある伝統こけしも震災によって窮地に追いやられていたのです。
そこで、高岩寺を訪れる参拝者が伝統こけしを通して東北地方の素晴らしさを再発見し、各地を訪ね歩いてくれたらささやかな復興支援になるのではないか、という思いにいたりました。そのような事情で、大々的に伝統こけしを展示することにしたそうです。

また、伝統こけしの愛好団体とも共同し、東北各地からこけし工人を招き、製作実演と名産品紹介のイベントを定期的に行うようになりました。
平成24年7月には、黒石市の津軽系伝統こけし工人 阿保六知秀さん(平成25年全日本こけしコンクール内閣総理大臣賞受賞)、と弟子の阿保正文さんを招き、「第1回東北復興支援伝統こけし製作実演」を開催しました。

(木地挽きを実演する阿保六知秀工人 平成24年7月)
その後土湯(福島)、鳴子・弥治郎・仙台・遠刈田(宮城)と、東北各県からこけし工人を招き、毎年7月と11月に製作実演を実施。高岩寺で実演した工人は28人、来場者は2万5千人にもなりました。そして、今年の秋には10回目を迎えます。
その際、実演の目玉となるのが青森産の「こけし灯ろう」です。
こけし灯ろうは黒石市の森勇一さんが独自に制作しているもので、高さ約1.8メートルほど。「ねぶた」の技術を応用し、和紙、木材、針金、LED電球などで作られています。実演のたびに数体ずつ作成された灯ろうは、今では11系統中8系統、計21体と全国でも有数の「こけし灯ろうコレクション」になりました。
こけし灯ろうが出来上がるまでには様々なご苦労があるようです。というのも、製作には各地のこけし工人の承諾が必要で、工人本人からモデルのこけしを提供してもらい、イベントの半年以上前から作りはじめます。出来上がった後も灯ろうの写真を工人へ送り、出来具合を確認してもらうそうです。
森さんによると、モデルのこけしを単純に拡大しただけでは各系統の特徴が失われてしまうし、他県のこけしの表情は書き慣れた津軽のこけしとは様々な違いがあるため、造形と描彩にとても神経をつかうそうです。しかし、いずれの作品も各地の工人から高く評価されており、匠の技術は折り紙つきです。

また、本堂には、こんなに可愛らしい灯ろうもあります。こちらは森さんが自ら高岩寺に献灯したもので、「桧扇(ひおうぎ)」の寺紋がはいっています。

伝統こけしは案外男性の愛好家が多いのですが、最近は若い女性の愛好家も増えてきているそうです。巷では「こけし女子・こけ女」と呼ばれています。
巣鴨におでかけの際は、高岩寺信徒会館のこけし達と青森産の大きくてかわいいこけし灯ろうを、ぜひぜひご覧ください。
<問合せ先>
とげぬき地蔵尊 高岩寺
住所:東京都豊島区巣鴨3‐35-2
TEL:03-3917-8221
本堂開門時間:年中無休6:00~17:00(4日、14日、24日は~20:00)
※高岩寺信徒会館 開館時間:年中無休9:00~17:00
<アクセス>
JR山手線【巣鴨駅】正面口 徒歩6分
都営地下鉄三田線【巣鴨駅】A3出口 徒歩5分
都電荒川線【庚申塚駅】徒歩10分
都営バス 浅草63【とげぬき地蔵前】 徒歩3分
by もんた