春間近の2018年3月、作家の吉永みち子さん、大岡玲さん、角田光代さんが2泊3日かけて青森を旅して歩いた。皆さまの心に、青森はどう響いたのか。今回、案内役を務めた地元・青森市出身の物書き・山内史子が、僭越ながらその模様をお伝えしたい。
食いしん坊でのんべえという今回の旅の仲間には、もうひとつ共通項がある。好奇心を刺激されるものがあると、状況を忘れて吸い寄せられてしまうのだ。途中、案内人の役目を図らずも放棄していた、わたくしもまた、然り。世話役のM氏は、まるで幼稚園の先生のように幾度となくこう言っていた。
「皆さん、ちゃんと集まってくださ~い。まっすぐ歩いてくださ~い!」
そんな一行の特性がいかんなく発揮されたのが、八戸市が経営する「八戸ブックセンター」だった。自治体が書店を営むのは、全国でも初めての試みだ。コンセプトは「本のある暮らしの拠点」。本との出会いをつくり、八戸に本好きを増やしたいという市の思いが込められている。
一般の書店と異なるのは、あちらこちらに椅子が用意されており、図書館のように閲覧だけでも楽しめること。ほか「読書会ルーム」、執筆のための「カンヅメブース」に加えドリンクコ?ーナーも用意された、 本を読みたい人、書きたい人にとっては至れり尽くせりの空間である。
一角には八戸出身の作家・三浦哲郎が愛用していた文机のレプリカも。『忍ぶ川』を何度も読み返したわたくしはそこですべてを忘れ、あの小さなアパート(場面は読んでお確かめください)へと心を飛ばした。「皆さん、どこですか~?」とのM氏の声に現実に戻り振り返れば、あら、ま、どなたもいらっしゃらない……。
果たして、愛猫家の角田さんは台の陰になった場所にしゃがみこみ、猫の本の棚に見入っていた。
「本好きの人にとっては、贅沢な場所ですね。猫関連のタイトルだけ見ても、ほかとは品揃えが違う!」と嬉しそう。吉永さんは壁際の席に陣取り、にこにこしながら写真集のページをめくっている。
「いやあ、この席、座り心地がいい上に目の前が花屋さんだからさ、気持ち良くって……」
大岡さんはハンモック風の椅子に腰掛け、ゆらゆらしながら笑顔炸裂。
「うわっ、木下直之さんの『股間若衆-男の裸は芸術か』(新潮社)が置いてありますよ!なんて、すばらしい。この本、面白いんだけど、置いていいのかな……。いや、でも、嬉しいですねえ!! 選んだ人に会いたくなりますよ」
そう、この店の最大の魅力は、選書した人の存在を随所で感じられることにある。並べ方に「わかってらっしゃる!」とニヤリとなったり、「この本が好きな人なら、こちらも……」との誘いにはまってあらたな扉が開いたり。かつて、書店では広く当たり前の景色だったのだが、販売情報がデータ管理され、売れる本、流行の本が効率よく棚を占めるようになった今や、消滅寸前の楽しみが残っているのだ。
本箱と語り合っているような感覚がある、本好きの人には絶対におすすめしたい、近所にあったら入り浸る、八戸に住んでいる方はこの存在を誇りに思ってほしい……と、とにもかくにも皆さま、大絶賛!本に親しんでいない人、インターネット通販に頼りきりの人でも、道が拓ける可能性がありそうだ。
そんなこんなの本を巡る冒険でエネルギーをたっぷり消費したため、栄養補給が必要となった一行はその後、陸奥湊駅近くの「みなと食堂」へと向かう。
お目当ては「2014年全国丼グランプリ」の海鮮丼部門金賞受賞のヒラメの漬丼である。熟成させた薄切りのヒラメを、注文後、特製の醤油ダレにさっとつけてご飯の上にのせ、真ん中には卵の黄身をぽとり。ああ、なんて、美しい。そして、狂おしいほどにおいしい!
いつ、黄身を割ればいいの? そう逡巡していると、カウンターの端に置かれた「陸奥男山」の一升瓶が目に入る。書店ではそれぞれの世界に飛んでいた全員の思いがいつしかひとつになり、コップ酒で乾杯。きりっとした、それこそ若衆のような酒の表情が、ああ、たまらない。ヒラメとも抜群に合う、合う、合う。
読む。飲む。ともに、全力前進一生懸命。もつけな旅の仲間が味わった幸せを、八戸市民以外の方々もぜひ、体感していただきたい。
次回、「物書きたちの青森旅 その4 青森の人と言葉と馬」へ続きます。
過去2回はこちらからご覧ください。
物書きたちの青森旅 その1 太宰治編
物書きたちの青森旅 その2 寺山修司編
八戸ブックセンター 住所:青森県八戸市六日町16番地2 Garden Terrace1階 電話:0178-20-8368 みなと食堂 住所:青森県八戸市湊町久保45-1 電話:0178-35-2295 | |
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