春間近の2018年3月、作家の吉永みち子さん、大岡玲さん、角田光代さんが2泊3日かけて青森を旅して歩いた。皆さまの心に、青森はどう響いたのか。今回、案内役を務めた地元・青森市出身の物書き・山内史子が、僭越ながらその模様をお伝えしたい。
津軽、南部と強行軍でまわった今回の旅の感想として想定外に嬉しかったのは、「青森はバラエティに富んでいて、面白いねえ」という吉永さんの言葉だ。振り返ったとき、そういえばあそこも……と思いが至ったのは、皆さまをお連れした青森県立美術館である。
ポップな印象すら覚える棟方志功、太宰とも交流があった重厚な阿部合成、キュートな「あおもり犬」の奈良美智、さらにはウルトラセブンの怪獣をデザインした成田亨……。青森県が生んだ才能は、この美術館だけでも確かに実に多彩だ。
「沖縄と青森だけが、口寄せがきちんと受け継がれているのも気になっているんですよ」とは大岡さん。全国で失われつつある、異世界とのつながりがまだ、各所に残っているのも、青森の特徴だろう。角田さんは道中耳にした「西の高野山」の噂に心を奪われ、次回は旧車力村(現つがる市)の弘法寺を訪ねたいという。
「青森は、異端の人が出る。とてつもなく突き出てますよね。太宰さんや寺山さんは、自分を嗤う道化的な共通点があるのも面白い」と語る大岡さんに、かねてから感じていた、太宰治の読点の打ち方が読んでいてとても心地よい、という話をしてみる。
「母語が同じ青森の言葉だからかもしれませんね。太宰だけではなく寺山さんも、故郷を離れてなお、どうしても逃れられない言葉をもっていたんだろうなあ」
映画『書を捨てよ街へ出よう』や『田園に死す』を観たときに、作品のなかに青森を強く感じたことをありありと思い出した。懐かしさとめぐさい思いが、複雑に交差した記憶。汝を愛し、汝を憎む。わたくしもまた、故郷に対して……などという切ない逡巡をすぱっと遮ったのは、とてつもなく旨い馬である。
ところは、五戸「尾形」。きれいな甘味が広がるたたき、脂のやわらかな旨みをまとった焼き肉、味噌のコクが深みをもたらす鍋と、めくるめく感動がおしよせる。合わせたのは、「菊駒」。ファーストインパクトは少々無骨なのだが、料理にさりげなく寄り添ううちにやわらかく微笑む。「ウホホホホ」と喜びの声がもれるなか、食いしん坊にとって青森は天国なのかもしれない、もっとあれこれ体験していただきたいと野望はふくらむ。
魚卵好きの角田さんには、蟹田、佐井、大間で血圧が上がるくらいウニをたっぷり食べさせたい。大岡さんには肝臓のリゾート・十三湖でシジミを、吉永さんには下北半島のアンコウ……。そんな心の声が聞こえたかのように、吉永さんが嬉しい球を投げてくれた。
「何度来ても発見があるから、また次も! と思ってしまうのが青森なんですよ」 馬をモグモグしながらめでたく、全会一致。というわけで、We shall return. 次は、いずこへ。
これまでの、物書きたちの青森旅
その1 太宰治編
その2 寺山修司編
その3 八戸ブックセンター編
青森県立美術館 住所:青森県青森市安田近野185 電話:017-783-3000 レストラン尾形 住所:青森県三戸郡五戸町字博労町18-1 電話:0178-62-3016 |
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