2020年2月上旬、最強の寒波襲来と足並みを揃えるように最強の食いしん坊たちが青森県を訪れた。作家の吉永みち子さん、料理家の栗原心平さん、そして銀座のバー「ロックフィッシュ」店主の間口一就さんだ。3人はいずれも、県内を東西南北くまなくまわっている青森通。それでもやっぱり青森に行きたい♡ というリクエストに応えるべく、青森市出身で現在は東京で物書きとして暮らすわたくし山内史子が案内役を務めさせていただいた。
吉永さん、栗原さん、間口さんはいずれも、超ご多忙な方々。実は今回の旅の日程も調整が大変だったのだが、青森! となればなんとしてでも、という深い愛をお持ちである。とりわけ頻繁に来県している間口さんと栗原さんは、2019年に何度青森に来たかを数えて指を折る。果たして30泊の栗原さんが、29泊+日帰り1の間口さんに僅差で勝利。いっそ、住んじゃえば?

そのおふたりがウイスキーをボトルキープするほど通っているのが、弘前市「けんちゃんホルモン」。リンゴ畑と岩木山以外は見えない郊外に立つ、知る人ぞ知る名店だ。津軽地方の一部地域では、人が集まる際にホルモンを食べる習慣がある事実もまた、県内ですらあまり知られていない。リンゴ畑でホルモンのバーベキュー……このあたりでは、お馴染みの景色だ。


けんちゃんホルモンでも肉を販売し、その奥が飲食スペースに。栗原さんと間口さんがはまっているのは、当然ながらおいしいから!! 間口さんが作る宇宙一旨いと評判のハイボールで乾杯の後、豚ホルモン、豚さがり、牛カルビ、牛バラ。いずれもが、手が止まらなくなる旨みをたたえている。そのヒミツは鮮度の良さだと主人の小野健嗣さんは謙遜して言うが、磨かれた厨房を見れば、きちんと丁寧にホルモンの下処理がなされているのだなと察せられる。

前回、朝ラーを逃した吉永さんは、ラーメンにも目を細めた。
「このちぢれ麺がいいんだよね~。懐かしい味だなあ。嬉しいなあ」
青森ではスーパーでも売っているちぢれ麺だが、東京で出会うのは至難の業なのだ。思わず飲み干してしまうスープのヒミツは、「ナイショ!」とのこと。気になる! また行かねば。

腹ごなし&まっとうな人間性を取り戻すために歩いたのは、弘前市内の禅林街。東京人にとっては“大雪”の道を、おぼつかない足取りで長勝寺を目指す。気持ちのいい静寂のなか、陽の光を浴びた雪が屋根からざざっと大きな音をたてて落ちるのを、吉永さんが愉快そうに眺めている。
「何度も来ているけど、こんな雪景色を見るのははじめて」という栗原さんは、同行者を雪の山に突き飛ばして喜ぶキケン人物と化していた。ああ、雪はおとなの心を、真っ白く純真にするのですねえ。ジャイアンを彷彿とさせる栗原さんの無邪気な笑顔を見ながら、しみじみ。

心身を清めた後は、冷えた体を温もらせるため、弘前市内の居酒屋「土紋」へ。ニシンの切り込み、イガメンチ、タラタマ、イカ刺しのタラの子和えなどなど、青森ののんべえにとってはお馴染みの友が待ち受けていた。合わせるのは、多彩に揃う地元の酒「豊盃」。おいしい~の大合唱が続く。



3人ともに恋に落ちちゃった店。再訪を重ねているため、主人の工藤清隆さん、女将の賀津子さん夫妻との気の置けない会話が繰り広げられるなか、間口さんがつぶやく。
「なんか、青森にたくさん親戚がいる感じがする」

青森県民の人見知り加減が、間口さんは好きだという。よそ者に対して最初は距離感があるが、一度その心の扉が開けば、あとは果てしなく愛情を注いでくれる。だからまた、会いにきたくなると。確かに青森県民は、奥ゆかしい。こったらだどごになんで? と旅人に対して遠慮がち。でも、そうやって言ってもらえると、青森出身者としては素直に嬉しい。豊盃、おかわりっ!


ほろ酔いの一行は、その後、弘前公園へ。お濠端、ライトアップで桜色に染まった雪の花をうっとり愛でて心を酔わせてから、土紋へ戻りふたたび酒で体を温め、忘れてならないシメ、筋子がきらめくおにぎりを注文する。


「あ、僕はオムレツも!」と頼んだ栗原さんの夢は、土紋を継ぐことだとか。その思いは、2019年11月に上梓された「酒と料理と人情と。 青森編」(主婦と生活社)でご確認いただきたい。青森各地の案内もあり、それがかなりディープ。地元民でも、発見があるはずだ。

栗原さんや間口さん、吉永さんの視点を通し、青森出身であるわたくしもまた、埋もれていた数多くの宝物を見つけた。青森はメエもんがありすぎる! というわけで、食いしん坊たちのまだまだ旅は続くのだ。
写真:松隈直樹