今回ご紹介するのは、七戸町の二ツ森貝塚です。2021年4月に二ツ森貝塚館がオープンし、地域が盛り上がっています。新しくてきれいな館内を、七戸町教育委員会・世界遺産対策室の学芸員、小林由夏さんに案内していただきました。
― 小林さん、七戸町にも遮光器土偶があるんですね!
「そうなんです。それもレプリカではなく、本物です」
― 建物に入って、まずこれが目に飛び込んできました。遮光器土偶って、ひとつしかないわけではなくて、わりといろんなところで出土しているんですよね。土偶のジャンルのひとつ、みたいなものでしょうか。
「まあ、そうとも言えると思います。ここで遮光器土偶を見て、びっくりするお客さんが多いです」
― なんでここに!? ってなりますよね(笑)。
「はい。展示室はこの廊下の奥なのに、ここからずっと動かないお客さんもいたり(笑)」
― ではさっそくですが、展示室のほうに案内していただけますか? 廊下にもいろいろ置いてありますね。これ触っていいんですか?
「どうぞ。石器や土器の感触を楽しめるようにしています」
「こちらが展示室になります」
― おー、すごい迫力ですね。えーっと、これは…
「貝塚の断面を直接剝ぎ取ったものです。」
「もうひとつ、別の剥取断面もあります」
― 注目ポイントはどこでしょうか。
「そうですね。たとえばここ。時期によっては、小さい貝しかなかったりするんです。あまり貝が取れない、大変な時期だったのかもしれません。でもその上には、巻き返すようにカキが重なっています。それぞれどういう時期だったのか、想像しながら見るとおもしろいですね」
― よく見ると、上のほうと下のほうとで堆積しているものが違います。
「下のほうは海水で育つハマグリ、ホタテ、カキが多くて、上のほうは汽水で育つヤマトシジミが中心です。環境が少しずつ変化していったことがわかります」
― 続いてこちらは…イヌの骨ですか! 保存状態がいいですね!
「生後半年から1歳のイヌだということがわかっています。食べ物をためておく貯蔵穴を、イヌのお墓に転用したようです。このように埋葬されていることから、当時、イヌは食用ではなく、狩猟などのパートナーだったと考えられます」
― ほかに見どころはありますか?
「ぜひ見てほしいのは、デジタルアーカイブですね」
― どんなものを参照できるんでしょう?
「展示資料はもちろんですが、展示されていない資料や、二ツ森貝塚を取り上げた新聞記事も見ることができます。縄文土器の表面をクローズアップしたりすることもできます」
「とくにおもしろいのが、二ツ森貝塚の航空写真です。昭和23年のものが一番古くて、昭和37年、昭和50年、平成26年と、全部で4枚あります。開墾される前の写真は、貝の白い色が広がっているんです。それを見ると、ここは貝塚だったんだなという実感がわくと思います」
― 昭和23年というと、戦後、わずか数年しか経っていませんよね?
「そうなんです。写真は米軍が撮影したもので、国土地理院に残っていました」
このあと教室に移動して、小学校の椅子と机でインタビューを続行しました。
― それでは二ツ森貝塚について、簡単に説明していただけますか?
「二ツ森貝塚は、今から5,500年から4,000年前、およそ1,500年ものあいだ続いた遺跡です。海に近くて、約4km先には太平洋があります」
― 当時は今よりも暖かかったと聞いたことがあります。
「そうなんです。今は貝塚のまわりに田んぼが広がっていますが、縄文時代は入り江になっていて、貝や魚がとれたと考えられます」
― 「しぇり~ぬ」というキャラクターもいますよね。名前の由来は、なんとなく想像がつきますが…
「想像のとおりで合ってます(笑)。シェル(貝)とイヌを組み合わせました」
― デザイナーさんに依頼したんですか?
「いいえ、わたしが作りました」
― ほんとですか!? すごい!
「作ったのはもう4、5年前、私が採用されたばかりのときです。『ちょっと作ってみてよ』と、ぽろっと言われて。そのときはまさか日の目を見るとは思わなかった(笑)」
― けっこう大変でしたか?
「わりとすぐ作れましたよ。3日間くらいで。ワードを使って」
― ワードで!? ワードって、デザインできましたっけ?
「図形の機能を使いました」
― ワードでキャラクターを作ってしまうとは…。さりげなくいろんなアクセサリーをつけていますね。
「首につけているのは骨角器です。頭には鹿角製櫛、肩から掛けてるのが人面付き土器で、中にシジミが入ってます」
― けっこう欲張りましたねえ(笑)
「いろいろ盛り込みました(笑)。しっぽは鯨骨製青竜刀形骨器です。がんばってギザギザを作りました」
― ワードの図形機能で(笑)。がんばりましたね。
「はい(笑)。柴犬に近かったという研究結果が出ているので、色は茶色とベージュにしました。よくタヌキとかカワウソに間違えられますが」
― しぇり~ぬ、いいですね。貝塚のイメージアップに大きく貢献しているのでは?
「とくに女性や子どもからかわいいと言われます。お客さんを案内するときも、展示よりもしぇり~ぬの話の方が長くなることもあるくらいで(笑)。効果が出ていると実感しています」
― 二ツ森貝塚のまわりには民家もありますね。
「地域の人たちにとって、二ツ森貝塚はすごく身近なものです。もともとは畑でした。高齢の方々は、小学生のころの通学路だったと言います。『貝塚』という名前のバス停が昔からあって、今も残っています。地域の方の8~9割が貝塚さんという名字なんですよ」
― ほんとですか(笑)。
「貝塚婦人会もあるんです。地域の人たちは、貝塚が世界遺産になって不思議な感覚を持たれているのではないかと思います」
― 貝塚の草刈り作業が行われているのを見たことがあります。
「二ツ森貝塚遺跡保存協力会の方々ですね。草刈りのほか、竪穴住居の燻蒸作業や、トイレの掃除などを行ってくれています。それとは別に、二ツ森貝塚ボランティアガイドの会もあります。まだまだ人数が少ないので、会員募集中です」
― 貝塚と地域の人たちが密接にかかわっているわけですね。ところで小林さんは、学生のころから考古学を研究していたんですか?
「はい、東京の大学で考古学を専攻しました」
― そのころから縄文も?
「そうですね、漆器が好きだったので、亀ヶ岡とか是川とか、当時から青森県の遺跡に来ていました。木造駅からつがる市木造亀ヶ岡考古資料室までタクシーで行ったり」
― けっこう距離ありますよ!?
「往復で8,000円くらい(笑)。資料室から帰るとき、受付の人に『交通機関はありますか』と聞いたら、『ないです』と。パトカーが巡回しているそうで、受付の方が『警察に送ってくれるように頼んでみますよ』と言ってくれたのですが、お断りました(笑)。パトカーに乗るのは、ちょっとなぁ…と思って」
― 七戸町には、ほかにもいろんな観光資源がありますよね。貝塚を訪れる方々におすすめしたい立ち寄りスポットはありますか?
「手作りジェラートのNAMIKIがおすすめですね。すぐそばに南部曲屋もあるので、馬産地特有の文化を感じてもらえると思います」
「紅葉の時期はイチョウの木もいいですね。県の天然記念物に指定されています」
「あとは七戸城跡。復元されているものはないのですが、当時の城の造りがちゃんとわかるので、マニアの方に人気です。雑誌の城めぐり特集などでも取り上げられたりしています」
― 最後に、小林さんから見た二ツ森貝塚の魅力について、聞かせていただけますか?
「はじめて来たときに思ったのは、展望のよさですね。私は神奈川出身なのですが、向こうにはこういう場所はないなあと思います。縄文時代と同じ地形を感じ取れるところもいいですね。開墾や造成はされていますが、だいたいもとの地形が残っています」
― 縄文人が見ていたのと同じ地形を見渡せるというのは、たしかにいいですね。
「竪穴式住居も2棟あって、どちらも中に入れるので、散策とあわせて楽しんでもらえたらと思います」
― 縄文時代の貝が今でも地面に落ちていますよね。
「そういうところからも縄文を身近に感じ取れるかと思います。ただ、史跡なので貝の持ち帰りはご遠慮ください(笑)」
― うっかり持ち帰るところでした(笑)。小林さん、今日は楽しいお話をありがとうございました! しぇり~ぬの今後の活躍にも期待しています!
by エムアイ
二ツ森貝塚館 | |
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場所 | 青森県上北郡七戸町字鉢森平181-26 |
TEL | 0176-68-2612 |
FAX | 0176-68-2645 |
時間 | 10:00~16:00 |
料金 | 無料 |
Webサイト | 二ツ森貝塚・二ツ森貝塚館 |
その他 | 休日 月曜日(祝日の場合は火曜日)、祝日の翌日、年末年始(12月27日~1月4日) |
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