まるごと青森

能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第2回)

観光スポット | 2021-10-21 11:00

三内観光スポットランキング第3位(私調べ)!高燥&重畳!三内霊園

 

青森市の「三内」と言えば、今や「三内丸山遺跡」で全国的にずいぶん有名になりました。三内丸山遺跡はしっかり整備されてますし、非常にロマンあふれる場所で、おすすめです。三内の観光スポットランキング第1位まちがいなし!

じゃあ、三内観光地ランキング第2位は?土地勘のある市民だったら、県美(県立美術館)を挙げるでしょうか。

ブー。

残念〜。三内丸山遺跡のすぐそばだけど、あそこは住所でいうと三内ではなくて「安田」なんですって。だから今回はダウトです。2位は「さんない温泉」ですかね。

じゃあ、第3位は?

めちゃくちゃローカルな話をしてますね。青森県民じゃなきゃ分かんないよ!って言われそうですが、大丈夫です。青森県民でも分かりません。「青森市三内」だけで3つも挙げるなんて無茶です。

でも、いいところがあるんですよ。三内霊園です!

墓地で観光?不謹慎というなかれ、ここはすばらしいスポットです。今回はこの三内霊園のレポートです。

 

初めて三内霊園を意識したのは、友人の車で市内を移動していたとき。車がふつうに通り道として墓地の中に入りこみました。そして、途中でくるりとロータリー状になった円形の道を回って抜けました。その円周には何やら小さなお店が並んでいて、妙に気になる風景だったんです。

さらに、新幹線で東京に行くとき、新青森を出て数十秒で、右側の車窓になにやら不思議な塔のようなものが見えます。何かいわくありげな。あれは何?と、あとから確かめると、これまた三内霊園の中にある何かなのでした。これは行くしかないでしょう!

新幹線から見える、気になる塔。車窓より。

三内霊園ロータリーにはバスで乗り付けてみたいので、例によって、目的地までは1人でバスで行き、現地で2メートル氏と落ち合うという算段。青森駅から「つくしが丘病院前」か「岩渡」行きのバスに乗るとあのロータリーに行けるようです。

狭い三内の通りを抜けるとバスは右に折れ、すると墓地のど真ん中をつっきる感じになります。ロータリーに行くまで左右に桜並木がつづく。まるで浄土のような道です。

バスはロータリーをぐるぐると回って「三内霊園」バス停で停車、私だけが下車。バスはこのままグルっと360°回りきり、また元の道に戻っていきます。

ぐるぐる回るバス。
ロータリーってあんまり見ないからテンション上がりませんか?

ここのバス待合室、ものすごくかわいい。シーズンオフ(?)なので誰もいないけど、お盆の時期なんかは混むんだろうか。

「市営バス待合所」の丸っこい文字、たまらん(この写真は夏に撮りました)。
意外と広い待合室。歴史を感じる。
達筆!パソコンで打った文字よりも身が引き締まる!

そんなこんなで私が小屋を鑑賞していると、2メートル氏が登場しました。

「いやあ、いいですねえ、ここ。ちゃんと来たことなかったです」

ですよね。自分と関係ないお墓にはまず来ませんよね。

あ、前回ので2メートル氏ファンになった方々には残念なお知らせですが、今回、2メートル氏はあんまり活躍しません。ごめん。

三内霊園内の道は、どこも妙にのどかで爽やかです。まっすぐで、整備から時間が経っているからちょうどよく古びていて、両サイドに桜が植わっていて。

2メートル氏は「お墓の中を道が走ってて、桜並木があって……(東京の)青山墓地みたいじゃないですか?」という。

分かります!私もそれを想像してました。ここは青森の青山だ(ややこしい)。

では、まず新幹線から見えて気になる塔(?)に向かいましょう。塔のほうへも、一直線に道が延びています。

天気はあんまりよくなかった。

そこを進んでいくと、祭壇のような物が見えます。おごそかな……何なんでしょう?

塔に向かって平行した2本の階段が延びている。とても荘重なつくり。何も知らずにここに来たら、こここそ三内丸山遺跡だと思っちゃいそう。

ここは古代遺跡ではありません。

階段と階段の間に誰かの銅像が。台座には「千葉傳藏翁」とあります。

千葉傳藏翁。市長。

碑文によると千葉傳藏は青森市長(昭和11年から)。この三内霊園を計画し、戦時中に7年の歳月を費やして昭和19年に完成させた方だそうです。

この像の碑文、昭和34年に書かれたもののようですが、とっても名文なのでここに書いちゃいます。

「此の地は高燥にして四囲の眺望にすぐれ眼下に洋々たる青森湾と市街地を収めまた岩木の秀峯を遙かに紫雲の間に望み更に重畳たる八甲田の秀麗を南に仰ぎ見ることができる真に霊魂の安住にふさわしい浄地で且つ今日香煙の絶えることのないこの一大霊地は郷土の永遠の誇りであります」

句読点がまったくない!「高燥」とか「重畳」とか、聞いたことない言葉をポンポン使いながら流れるような文章で超ほめたたえている!三内霊園はきっと高燥だし重畳だし、永遠の誇りです。

階段をのぼりきると、足元は芝になった。荘厳さはさらに高まる。

あれ••••••?ここ、タージマハルなんじゃない?

「青森の青山なんて言ったけど、ここは青森のタージマハルかもしれないですね」

私は視点をワールドワイドに修正しました。鎮座する白い塔。2人でおそるおそる近づいてみます。

新幹線から見えたアレだ!

立て札や碑文によれば、これは「青森平和塔」だそう。「昭和20年7月28日の青森市大空襲によって失われた多くのいたましい人命」をはじめ、戦争犠牲者および三内霊園に眠る精霊を慰めるため立てられたとのこと。

正直、私は青森に住むまで、青森大空襲の存在を知らなかった。行政側の不手際もあって700名以上の死者を出した、悲劇的な空襲です。これだけしっかりした塔だったのも納得です。私たちは静かに手を合わせました。

さらに、碑文によると、「塔内に奉安された仏舎利は日本山妙法寺山主・藤井日達上人の尽力により、インド、ネール首相から贈られ、(略)安置された釈尊像は三百年前ビルマ国王の造立にかかり、ビルマ、ウ・オッタマ大僧正から贈られたものである」とのこと。

インドとビルマ(ミャンマー)から贈られたものだったのだ!どこかインドっぽいと思ったのは正解だったんですね。

で「釈尊像」はどこに?と思うと、かまくらのような形の土台のなかに、なにやらモヤッと浮いている。

あれが像••••••?見たい••••••けど見えない••••••!

くもったアクリル板なのか、ガラスなのか、その向こうに仏様がいるのだけど、うすぼんやりしている!妙に妖艶になってしまっている……。

階段をのぼって至近距離で見ようとした私を2メートル氏がおしとどめた。

「階段から先は『出入禁止』みたいですよ〜ハハハ」

台座についている階段の手前は鎖で仕切られていて、「出入禁止」の札があるのでした。見たいけど見えない、ちょっとだけ見える仏様。

横からなら見えるかな?と思ったらもっと無理でした。
しかし、ここからの眺めは碑文のとおりすばらしいです。重畳たる八甲田!重畳で高燥!海も見える!

塔を見てから丘を降り、もう一点気になるところ、お店のほうへ向かいます。

かわいく5軒並んでいます。

向かって左から、看板やひさしの文字を読んでみましょう。

「吉崎売店」墓地コンクリート工事・石材一般/お墓のお掃除承ります。

「マルセイ佐藤商店」各種盛花 墓掃除・墓石工事


「乳井石材店売店」青森名物みそおでん 昔味の中華そば お墓のおそうじ 納骨のお手伝い お墓の改修 移転のご相談


「坂本商店」


「岡田商店」おでん・ラーメン・コンクリート工事一式/お墓の掃除

お墓の工事、掃除はまあ分かる。そこにラーメン、おでんが入ってくるのが気になる。

5店とも外観は似ていて、店頭には仏花が並び(墓参り用の桶の中に入れて売っていて、かわいらしい)、お菓子や飲みものもあり、そして奥がちょっとした食堂になっているようです。

「『おでん・ラーメン・コンクリート工事一式』って、いいですねえ〜。おでん・ラーメン・コンクリート工事。おでん・ラーメン・コンクリート工事」

2メートル氏が歌うので、おでん・ラーメン・コンクリート工事が気になる岡田商店に突入です。「中華そば」と「生姜味噌おでん」ののぼりも立っています。

皆さんご一緒に。ハイ、「おでん・ラーメン・コンクリート工事」

岡田商店の中にはテーブルが2つ、そして謎の小上がりがあります。小上がりにはテレビ、なぜかギターがあり、私物らしきものもたくさん。お昼時で、近くで工事をしていた人たちがちょうどラーメンを食べていました。中華そば550円、中華ざる550円、お酒300円、生姜味噌おでん一皿(2人前)350円。

「中華ざる」は、青森県民がてっきり全国区だと思いこんでることで有名なメニュー。他県ではなかなか見ません。中華麺をざるそばのように食べるものです。「生姜味噌おでん」も青森特有。小さなお店だけど、しっかりガッツリ、青森モードです。

とりあえず生姜味噌おでん。寒いときの生姜、最高。
そして中華ざる。肌寒かったのに、つい「青森だから」と思ってざるのほうを選んでしまう。おいしい。

お店の人に聞いてみると、お店はトータルで「50年くらいはやってるんでねか」とのこと。かつては6軒あったらしい。1軒の離脱が少々気になる。

5軒のライバル関係も気になるところですが、「徐々にここに集まってきたような感じ」なんだそうで、あんまり他店との関係については聞き出せませんでした。謎のままにしておきましょう。

岡田商店さん(おそらくほかの4店も)は、お墓の工事を手配したり、遠方だったり高齢だったりいろいろな事情でお墓になかなか来られない人について、お墓の掃除を代行したり、というお店なんだそうです。で、相談のついでや工事のついでに、ラーメンやおでんを食べることもできる。

お墓だけど暗い感じが全くしない爽やかな丘陵で、”重畳たる”景色も見られれば、お店で素朴な青森ラーメンも食べられる(しかも5店から選択可能)。お花見にもきっと良いし、実は夏にはかき氷もやっている。三内霊園は十分に観光地と言っていいと思うんですが、どうでしょう?

あ、ちなみに雪が積もる頃(岡田商店さんは12月頃から)にはお店は閉めちゃうそうなので、要注意です!

 

by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。著書に、『逃北』(文春文庫)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』(文春文庫)、『結婚の奴』(平凡社)など。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。

 

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青森市三内霊園
場所青森市三内沢部353番地
TEL017-766-0609(管理事務所)
時間午前8時00分~午後5時00分(管理事務所:4月1日~11月30日)
Webサイト青森市三内霊園

掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。

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