青森のスーパーの一部コーナーを飾り立てるアイツに迫る!
どこに行ってもスーパーが好きです。旅行先ではスーパー訪問を欠かしません。そして、私はだいたい漬物・豆腐・納豆あたりのコーナーを見に行きます。このコーナーにはその地方がだいたい詰まっているのだ(ちなみに私、漬物の類は実はあんまり好きではない。米酢や発酵系の酸っぱさが苦手なのである。それでも見ずにはいられない)。
さて、青森はどうかというと、市内のスーパーの漬物コーナーを占拠する大勢力がありますよね。
その名をヤマモト食品という。県民(特に青森市周辺)にはおなじみでしょう。
大型スーパーに行けば、ヤマモト食品のパックで漬物関係のコーナーはかなり埋め尽くされています。ねぶた漬、松前漬、ダイヤ漬、子っこちゃん、かずのこ太郎、ねぶた祭り……正方形のパックに入った統一性のあるデザインで、同じ会社の製品であることがすぐ分かる。近くに置いてある、袋に入った形の「味よし」シリーズも同じヤマモト食品です。

ラインナップが超多いし、せっかく青森ラバーになったということで、漬物苦手な私もちょっと挑戦してみようかな、と思って、代表作と思われるねぶた漬を手に取ってみた。原材料を見てみると、大根、数の子、きゅうり、昆布、するめ、砂糖、しょうゆ、食塩……あれっ、私の苦手なものはどうやら入ってなさそうです。
手早く済ませたい朝、レンチンごはんに乗っけて。え、たんげめぇ(めっちゃおいしい)。
私は、大根、きゅうり、数の子、昆布など似た材料の「味よし」、そして数の子をメインとした「ダイヤ漬」にも手をつけた。朝ごはんはインスタントのホタテ味噌汁と、ごはんの上にヤマモト食品の何か、というのが青森生活の定番になってきた。
さっそく弘前の友人に近況報告だ。
「『ねぶた漬』ってあれ、おいしいよね」
「え~、あんまりこっちでは売ってないよ。うちはつがる漬ばっかり」
調べてみると、青森近辺はねぶた漬(ヤマモト食品)、弘前近辺はつがる漬(鎌田屋商店)が優勢であるらしい。しかし双方ともに同じような商品らしい。もうなんなの、青森ってば。ちょっと山越えたら売ってるもの違うんだから~(そういう、各地がキャラ立ちまくりのところが好きよ)。

しかし、「ねぶた漬」と「つがる漬」2つの関係、実際どうなんだろうか。あんまり触っちゃいけないデリケートな関係なんだろうか? 私はいま青森市在住なんだから、調べてみるしかあるまい。
ということで、私はある朝、ダイヤ漬を食べて勢いをつけてからヤマモト食品さんに突入した。今回は初の、ちゃんとした取材ものである!
ちなみに、取材は夏です。寝かせすぎてしまった。すみません。
ついでに、市の東部に行くということで、2メートル氏とともに「みちのくシェーク」にもちゃんと入っている。国道のあそこの前を通るときは車があそこに吸い込まれる仕組みになっているので、抵抗できなかった。

青森市東部のヤマモト食品にて、山本浩平社長にお目にかかります。若社長、創業から四代目でまだ30代という若さ。まずねぶた漬の起こりから聞いてみた。
「うちの母方の祖父が、もうちょっと青森市の名物になるようなものを作りたい、っていうところで、『味よし』におっきい数の子を入れたのが始まりになりますね」
てっきり主力商品なので、ねぶた漬がまず最初にあるんだと思ってた。「味よし」から始まっていたんだ!
「今でこそ数の子はほぼ輸入に頼ってるような状況ですけども、当時は数の子はそこらへんに落ぢてたんで。数の子くわえたどら猫♪みたいな、そういう時代なんで、はっは」
もうこの時点で分かるとは思うが、山本社長、べしゃりが立つタイプである。一見ぶっきらぼうだが、冗談や皮肉も交えつつ立て板に水で何から何まで話してくれる。いかにも津軽の人だ!と私は思った。
さて、ジャーナリストとして私は早速核心に迫らねばならない。ねぶた漬との関係性について突っ込んでみた。

「う~ん、いま県内には他社さんいろいろあると思いますけども」
私の調査も足りなかったのだが、「ねぶた漬」「つがる漬」的な製品を作っている会社は県内にまだまだあり、いくつかはやめたりしていて、決して2社に限られているわけではないらしい。
「まあ、供給量はうちの会社のとこがいちばん大きいんじゃないかと」
社長、そこはプライドを見せる。事実であろうから、当然である。
「創業としては鎌田屋さんは全然古いし(鎌田屋の創業=1919年、ヤマモト食品の創業=1935年)、鎌田屋さんが(ねぶた漬/つがる漬を作ったのが)先だっていう話もあるんですけど、それはまあどっちでもいいなと思ってて」
うんうん。
「『味よし』っていうと『鎌田屋さんでしょ』っていう人もいるんですよ。社名と商品の名前がうまくリンクしてないっていうのがあって。」
なるほど…。確かに、そこは会社名をもっと押し出していきたいところ。
ところで、食べ比べしていない私がいうのもなんですが、お漬物そのものとしてはどうなんですかね?私の弘前の知人は、つがる漬のほうがしょっぱめで、彼女はそれが好きなんだそうですが。
「あ~。鎌田屋さんは方向性が京都っぽいんですよ。色の使い方にしても。あれはあれでいいなあと。そもそも昔から製法崩さないっていうのもあって」
社長、さすがにライバル社をよく見てらっしゃる。
「うちはどっちかっていうと、ねぶた漬とか味よしっていうのをどこ行っても買えるようにしていくってのが青森県の食文化を広げていくってことだと思ってるんで。HACCPとかも取って、海外輸出とかも広げていきたいなあと」
実は高校で海外に出ている社長、津軽弁で素朴な感じもあるが、しっかり外を見た野心家です。実際、ねぶた漬はアメリカやタイにも進出しているらしい。新生姜で有名な岩下食品ともコラボするなど、常に新しい展開を見据えてもいる。
そして、そんな社長が「つがる漬」との関係以上に熱くなったのは、意外にも「け」についてであった。「け」。
「よくあるのが、正式名称『ねぶた漬』なんですけど、これはパソコンが悪いんですけど、打つと必ず『け』が追加されるんですよ」
たしかに商品名は「ねぶた漬」で、「け」は入りません。
「あまり分かってないスーパーさんだとポップが『ねぶた漬け』だったり、紹介の印刷物でも『け』残っちゃってたりとか。この前いちばんひどかったのは、テレビで紹介されたんですけど、『ねぶた漬け』だっただけじゃなくて、写真が松前漬だったんですよ!(苦笑)」
みなさま、最低限、商品は混同しないようお願いします!
「ま、それくらい、普通の人には差がよくわかんないってことですよ。だから、どっちが先なんですかってことになると……そこはもうあまり触らないようにしてます」
無駄な争いを避けるために、あまり気にしないようにしている若社長でした。
さて、この差を聞くだけじゃせっかく会社まで来た意味がない。ここには工場もありますから、見学させていただきます。しばらく写真でお楽しみください。




あ~楽しかった。
と、工場見学を終えて、社長に今後の目標についても聞いてみました。
「近々、自販機作ろうかとおもってまして」
え、何のですか?
「タラコとか明太子ですね。もともとは幹線道路沿いに看板ほしかったんですよ、どーんと。ただ、買ったら買ったで(土地代)払わねばまいね(ダメ)だなって。今後もたぶん過疎化が進むし、そこさ自販機置いて、収益になってかつ看板置ければいいよねって」
この自販機、結局ロードサイドではなく港町工場のところに置かれました。今すでに稼働しています。
「めんどくさいっていったらアレですけど、勝手に買って下さいって(笑)。工場もできるだけ機械化する方向で研究はしてます。なるべく働きたくないっていう気持ちを形にしてくださいってみんなには言ってるんで。何言ってんだコイツって言われますけど。不労所得とかそういう言葉が好きなんで」
新しいことに果敢に挑戦しながらこの口調。これが山本社長である。
「ただ、製造ラインを機械化できないもので、食文化として残したいというか、やってるものがあって。ホッケのいずしっていう……」
ここで食い気味に「大好きです!」と入ってくる2メートル氏。山本社長も笑いながら「作っといて言うのも何ですけど、あんなもんばっかり食ってたら早死にしますよ!短命県だはんで」とか言う。なんなんだこの青森人たちは。
「他にやってる会社が続けられなさそうで、もうまいね(ダメ)っていうんで。依頼を受けて始めてるんですけど、工場のライン組めないんですよ。業界的に生産性とかいろいろ言われるんですけど、存続ってところで、そういう取り組みもしてるっていう最中です。ただ利益率はそんなに悪くないんですよ」

「ま、これを機にうちの商品いろいろ食べてもらえればと思うので。いろいろ用意しましたんで、まあどうぞ」
これだけ取材させていただいて、ひととおりヤマモト食品のおみやもいただいてしまった(ホッケのいずし付き)。2メートル氏も「新しい青森の可能性が見えてきました!」と言いながらほくほく顔でありました。山本社長、本当にありがとうございました(そして、原稿にするのが猛烈に遅れてごめんなさい)!
さて、余談も余談ですが、山本社長、最近はマンガを読みながら寝落ちすることが多いらしい。何を読んでるんですか?と聞いたら、
「藤崎竜版銀河英雄伝説ですが、ちゃんとウルトラジャンプも毎月買ってて、単行本もちゃんと買ってます」
封神演義でもおなじみの藤崎竜先生は下北半島出身。マンガについても生粋の青森推しなのであった。
「僕、大好きなんで。藤崎さんにはパッケージ書いてほしいですよ、いつの日か」
藤崎版のねぶた漬パッケージ、見てみたいですねえ。
by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。著書に、『逃北』(文春文庫)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』(文春文庫)、『結婚の奴』(平凡社)など。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。
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ねぶた漬のヤマモト食品 | |
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場所 | 青森県青森市野内浦島56−1 |
TEL | 017-726-5581(受付時間:8:00〜16:30) |
FAX | 017-726-5575 |
Webサイト | ねぶた漬のヤマモト食品 |
その他 | 定休日:日・祝日(不定休 水・土曜日) |