主に、小屋を見に小泊へ
このシリーズではまだせいぜい隣町(青森市の)くらいまでしか行ってませんでしたけど、私たちが初めて行った遠征は「小泊」です。
遠くに行くなら私はまず小泊に行きたかった。小泊は、遠い。めちゃくちゃ遠い。でも、小泊はそれだけのものを持っている。
小泊村は中里町と飛び地合併し、いまは「中泊町」と呼ばれたりもするけれど、やっぱり私にとって小泊は小泊です。三上寛を産んだ、細川たかしの望郷じょんからに歌われた、日本海、荒波、寒風、大漁!という感じの町。津軽のみならず、日本海を代表する町と私は呼びたい。小泊のこと、みんなもっと知ってほしい!
例によって2メートル氏の運転により、青森市から津軽半島を北上し、蟹田から一山越えて、今度は真っ平らな十三湖のほとりを走って、日本海を眺めてさらに北上して、やっと、やっと着きました、小泊。
さて、長い運転で疲れていたはずなのに、車を停めて漁港のほうに向かうといきなりテンションが爆上がりする2メートル氏。
「おおっ、堤防ですよ!」
いやまあ港町だから堤防くらいあるでしょうが、なぜそんなに興奮しているのか。
しかたがないので私も2メートル氏に続いて堤防に上がってみた。しかし……。
堤防の先には日本海の荒波が打ち寄せている。手前は砂浜とはいえ、高さ4~5メートルはある。荒波打ち寄せる場所まで行って「来ないんですか~?」とはしゃぐ2メートル氏。しかし、私はマジで足がすくんでしまい、2メートル氏のところまでは行けなかった。そうだった、夏泊半島のときも、意外にも自然に相対したときの2メートル氏はこんな感じだった……。
さて、2メートル氏にはてきとうなところで降りてもらいまして。
で、ですね。私が小泊を超オススメする理由は、日本海の荒波ではありません。
2メートル氏が駆けた堤防の対面にある、これです。
船を見守っている、これです。
これです!
小屋たちです!!
私は以前に小泊に来たとき、漁港に大量に並ぶこの小屋たちが大好きになってしまったのだ。漁師小屋と呼んだらよろしいんでしょうか。漁のときの道具やらなんやらがしまってあると思われる、小屋。
さまざまな素材で作られた、さまざまな色の、それぞれにオリジナリティのある小屋たちが、だいたい同じ形でだいたい等間隔に、大量に並んでいる!
絶景だ!!
堤防にのぼって満足した2メートル氏をよそに、私は小屋を撮りまくりました。何十何百もの漁家の営み、年月が、簡素な小屋にしみこんでいるのよ。風景としてこんなすばらしいものはなかなかない。
さて、ある程度写真を撮って満足してふりかえると、そこには気になるお店が2つあった。
右のお店は、「ごんげんざき」が店名ではない。看板にはとても小さくしか書いていないけれど、お店の名前は「じゅうもんじ屋」さんです。「ごんげんざき」は、白あんの入った薄皮饅頭の名前だそうです。小泊の名所「権現崎」にちなんだ銘菓らしい(ちなみに権現崎はここからは遠い)。洋菓子も売っている、頼りにされるお菓子屋さんでした。
さて、問題は左である。
「津軽カフェ物語」という、カフェなのだった。しかも、どう見ても新しい。
内部には、見るからにただものではない雰囲気が漂っています。2メートル氏も、店内を隅から隅まで眺めて「いやあ~…すごいなあ……」を連発。
器にはファイヤーキング(緑色のミルクガラスのもの。アメリカのブランド)や津軽塗が揃い、メニューには「古樹プーアル生茶」「工夫紅茶」など聞いたことのないお茶が揃っている、青森はおろか東京でもめったに見ないテイストの凝りまくりカフェです。
店主の福地真也さんは、ニホンミツバチの養蜂もすればニンニクも育てていて、農家の副業としてカフェをやっているのかと思いきや東京にいた頃は気功師をやったり占いもやったりと、なかなかとらえどころのない、一筋縄ではいかない人物。
ただ、冬季は基本的に休業のようです。興味のある方は雪が溶けた頃、様子をうかがってみましょう。
なんとも、白昼夢のような店でした。
さて、私たちはさらに小泊の集落を奥へ西へと進む。小屋はまだまだあるのである。
と、夢中で小屋を撮ってから、集落の奥へ。
最後のシメは「深海魚」なのである。といっても、深海魚を食べるわけではない。
さっきカレーを食べちゃった私は、ミルクセーキをたのむ。しかし、同じくカレーを食べたばかりのはずの2メートル氏は……
「『ピッザ』って書いてありましたからねえ。やっぱり……」
と、平然とピザを頼んだ。さすがです。
食べ終わると、お店にさらに奥の部屋があることに気づく。そして、そちらからなんとなくギラギラしたものを感じる。なんでしょう?
え!!鏡張りの部屋だ!なぜ?
お店の方が言うには、もうこっちの部屋は使っていないらしい。しかも、まぶしすぎると苦情が来て、こうしてアミアミで覆って少し抑えてしまったそうなのだが……なんだかもったいない気も…!
私たちがこのド派手さに興奮していると、電気をつけてくれました。
非常にわびさびを感じる大量の小屋たち、白昼夢のようなカフェ、そしてすべてを吹き飛ばすようなビッカビカ鏡張りの深海魚。
小泊、とても小さな町だけど、青森でも屈指の強烈スポットです。小屋を観察するためにも、定期的に訪問しなきゃいけないなあと改めて決意を固めた次第であります。
by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。著書に、『逃北』(文春文庫)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』(文春文庫)、『結婚の奴』(平凡社)など。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。
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