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野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その2①」

観光スポット イベント・まつり | 2022-09-12 17:21

2022年8月4日(木曜)

念願の青森ねぶた祭を見る日が来た。自宅から電車を乗り継ぎ東京駅で新青森行きの新幹線に乗った。しかし出発時間になっても動かない。車掌のアナウンスが聞こえてきた。「福島県で地震があり、その影響で運転を見合わせています」

このまま運休するのではないか。そんな不安に駆られながら、次のアナウンスを待つ。やがて「安全が確認できましたので運転を再開します」という声が聞こえ、新幹線が走り出した。

予定より45分遅れて新青森駅に着き、駅前のバスで県立美術館に向かう。以前、行ったことがあるのだが、棟方志功、奈良美智の作品に再会したかったのだ。

夏休み期間中とあって企画展は子どもも楽しめるものが中心で、やってきた小中学生が目を輝かせていた。中でも奈良美智の「あおもり犬」は人気で、家族連れやカップルが盛んに記念写真を撮っていた。

青森県立美術館のあおもり犬

新幹線が遅れた分急ぎ足になったが、それでも絵画や立体作品を堪能して、次の目的地へ。

青森に来たら温泉銭湯に入る。これが私の旅の掟であり、楽しみだ。といっても時間の制約があるので、前回同様、駅から徒歩圏の「まちなか温泉」で大きな湯船に浸かる。ねぶた祭りの真っ最中だから、混雑は覚悟していた。予想通り脱衣所は気を付けないと誰かに触れそうなほどだった。しかし浴室に入るとがらんとしている。いやいや、よく見れば前回とは比べ物にならない人数なのだが、広さのせいでストレスフリー。大きな浴槽では十分に手足が伸ばせた。いいなあ、この風呂。

まちなか温泉内の飲食施設で早めの晩ご飯を食べ、夕暮れの中を会場まで歩く。気温は20度台半ばか。8月なのに涼しいほどだ。直前まで東京の猛暑日に耐えてきた体に涼風が優しい。事前にパイプ椅子の指定席を予約していた。「国道Aエリア A6ブロック 45番」。横に長い3列の椅子席は満席だった。

大迫力のねぶた

祭が始まった。遠くの交差点に差し掛かったねぶたの明かりが見えた。太鼓の音が聞こえ、囃子方が賑やかに続いているのがわかる。角を曲がった。近づいて来る。ちょっとどきどきする。

ああ、これがねぶたか。目にも鮮やかな色彩の乱舞。圧倒的な立体造形。「ドドンドドンドンドン」。暴力的ともいえる巨大な太鼓の連なりが、見る者のアドレナリンを刺激しながら進んでいく。篠笛のメロディー、手振り鉦のリズムが混然となって観客の体と心を揺さぶるのだ。

太鼓の音が鳴り響く

跳人(はねと)はコロナ規制の対象になったらしく、人数が限られロープで囲まれている。跳ねるのが禁止されているのか静かな行進となったが、それでも何人かが我慢できずに少し跳ねた。多い時には1台に2000人もの跳人が連なり跳ねに跳ねるというから、そのエネルギーはどれほどのものだろう。踊るのではなく、様式に縛られず跳ねる。そこに原初の匂いが漂う。

1時間ほどで祭りは終わったが、駅に向かう途中ずっと頭の中で太鼓とお囃子の音が鳴り響いていた。そしてふと思った。ねぶたが今の形になるためには大量の紙とろうそくなどの明かりが手に入らなければならなかった。庶民が紙を使えるようになったのは江戸期以降だろう。ろうそくも貴重品だった。ということは、ねぶたのルーツが七夕行事であれ精霊流しであれ、紙とろうそくを使わない時代が長かったと考えていい。つまり昼間の行事だったわけだ。だが音はいつの時代でも自由に楽しめた。何かを何かでたたけばいいからだ。跳ねる、つまり肉体の躍動は自然にわいてくる。ねぶたの根源は音であり肉体ではないか。

精霊流し(※画像はイメージです)

森浩一著「古代史おさらい帖」の記述を思い出した。斉明天皇は659年に遣唐使を派遣し、その様子を記録した文書が日本書紀に収録されている。蝦夷(東日本の民)に関してその文書は「最も遠い者が津加留(津軽)、次が麁蝦夷(あらえみし)、一番近いのが熟蝦夷(にぎえみし)」とあり「津軽は独立した勢力を保っている」。

律令政府にある程度帰順した蝦夷は「俘囚(ふしゅう)」と呼ばれた。平安時代の法令集「延喜式」には移住させた俘囚に支給した俘囚料が記録されているが、最も多かったのは肥後(いまの熊本県)へのもので、1000人もの俘囚がいたと推定されている。なんのためにそんな大勢の俘囚が九州にいたのか。森氏はヤマト王権と対立していた「熊襲(くまそ)にたいする対策だったとぼくはみている」と書く。つまり傭兵として北の民が配されていたわけだ。「エミシは1人で(九州の兵)100人に匹敵する」という内容の歌も残っている。当時、北の民は屈強なことで知られていた。

ねぶたで初めて耳にした太鼓とお囃子、初めて目にした跳人の放つ熱。ヤマト王権に蝦夷と呼ばれていた時代から津軽の地に潜むゲニウス・ロキ(地霊)のうごめきを感じたような気がして、しあわせな夜を過ごした。

 

野瀬泰申(のせ・やすのぶ)
<略歴>
1951年、福岡県生まれ。コラムニスト。元日本経済新聞特任編集委員。著書に「天ぷらにソースをかけますか?」(ちくま文庫)、「食品サンプルの誕生」(同)、「文学ご馳走帖」(幻冬舎新書)など。

 

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青森県立美術館
場所青森県青森市安田近野185
TEL017-783-3000
Webサイト青森県立美術館

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