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能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第5回)

観光スポット | 2022-10-19 17:00

目時・前篇。~そっちは岩手ですよ篇~

誰も待っていないかもしれないけど、たいへんお待たせ致しました。ちょっとお休みしてしまってましたが私はまだ青森のいいところばかり見ています。

私は常にはじっこが好きだ。食パンもはじっこの固いところがいい。青森県もはじっこのほうが好きだ。

青森ははじっこ(らしきところ)が多い県です。今までこの連載で夏泊半島のはじっこにも行ったし、小泊にも行ったし、この原稿では書いていないけど龍飛崎にも、尻屋崎にも、大間崎にも行っている。九艘泊にまでも行ってる。

しかし、南のほうの、県境という意味でのはじっこはまだ攻めていませんでした。ってことで、青い森鉄道の隅っこの駅である「目時」に行ってみたいなと思ったんです。

「目時」って、字面的にも惹かれるところがありますよね。メトキ。口に出しても口が気持ちいい地名ですよね。ここは青森県最南端の駅だそうで、駅がある場所も県境ギリギリ、歩いて岩手県に行けちゃう。そういうところがグッときます。

いつもどおり、私は単独で鉄道に乗り、車で向かう2メートル氏と目時駅で現地待ち合わせ。

着いたぞ目時。対岸ホームには見知った大きな人が。
目時駅のホームが土手の上にあるので、ホームから駅舎に行くには地下道を通ります。味のある作り。

余談ですが、私は横に長い、平べったい駅が大好きです。昭和の時代に建てられた、余裕のあるつくりの横に長い頑丈そうな駅舎。タイル貼りだったり、駅の字形がかわいかったりして建築としてとてもキュートなんです。目時は無人駅ですが、駅舎はまさにそのタイプ。

ほら!このタイル貼りといい、「目時駅」のまるっこい字体といい、白緑白緑のベンチといい、もう100点だよ!かわいい!

さて、2メートル氏と再会しまして。駅にはほかに誰もいないし、駅前にも特に何もない。駅の中の壁には写真が貼ってあり、目時近辺の名所らしきところがいくつか解説してあります。

「この薬師堂っていうの、何なんでしょう、気になりますねえ」

そういって写真を指し示す2メートル氏。神社仏閣というものはまあ日本どこにでもあるものですけど、そんな珍しい感じですか?と、さほど気もなく見ると、確かにこれは……

お堂の向かって左側はどうなってんの?
え、なに、なにこれ?岩に飲み込まれてるの!?

見るからにすごそうだけど、駅内の観光マップにも「山頂に建っている不思議な神社。毎年5月に恒例のお祭が開催されます」って程度しか書いてない。説明が足りないぞ。何なんだろう、気になる。

……と思いつつも、私が目時でまず目をつけていたのは、やはりはじっこゆえに、徒歩で岩手県に行けるということです。

だからなんだ、と言われても困ります。徒歩で境界を越えるのって、なんかグッと来ませんか。地図に勝手に引かれた境目、すなわち、人間が勝手に決めた、実際に現地には存在しない概念上の線を越える、ってこと。境とは何なのか。分断とは。……って、グッと来るということで話を進めますよ。

目時の駅前には商店などひとつもなく、のどかな農村風景が続いています。

駅前一等地が売りに出てました。どうですか?

そこから素朴な道を歩き、坂を下って線路の下をくぐる。

豪雨があった直後なので、路面も濡れてるし、湿気がすごかった。

すると、川が見えてきます。この「馬淵川」が岩手と青森の県境。河川敷まではかなり傾斜があり、川はかなり低いところを流れている。そして、対岸・岩手県の斜面に掘られたトンネルに、線路が突っ込んでいきます。あら、なかなかの絶景じゃないですか。撮り鉄はこのあたり好きそうですね!

撮り鉄は好きそうですね、なんて言いながら、私たちも好きです。2メートル氏も含めて何枚も写真撮っちゃった。
年季の入った橋脚、繁茂する植物、見えない県境、いいね!ここはいいね!
対岸にはささやかな水力発電所もありました。

さらにさらに坂を下りていくと、橋がある。この橋の先は岩手県。といっても、特に何があるわけでもない。だいぶ先まで歩けば小さな「山屋」という集落がある、というだけです。

山屋は岩手の集落だけど、最寄りは青森県の駅。ここに住んでいて目時駅を使う人は、毎日県境を徒歩か自転車で越えるのかな…なんて想像してみますが、このへんはまるで無人の田舎道なので、そんな人はいないかもしれない。高校生だったら自転車で来たりすることもあるのかな?

橋はちょっと老朽化していて、欄干が低く、川面からかなり高く、ちょっと怖い。人は歩いていないけど、ごくたまに車は来る。

目端橋(めばたばし)という。目時の端っこだから目端かな?と思ったけど、対岸の「海端」という地名にちなむのかもしれない。欄干がさびさび。

岩手県側は、山と森。青森県側は、草の生い茂った河川敷。ここがまた、数日前の大雨のときにけっこう増水していたようで、背の高い草がことごとく下流側に向かって倒れている。水の勢いを感じてちょっと怖い。

上流から下流を眺めています。草の流れが……。この時点でもだいぶ水位高め。

でもまあ、この県境からさっきの鉄道橋を眺めるのもなかなか味があるよね、と思って眺めていると、おや?なにか、鉄道橋の足下が、ステージ上の演歌歌手みたいになっているよ。スモーク……?

なんか、川からものすごくモヤってきてませんか?煙や雲のような……

山のほうでは湿気が非常に強いときにこういう靄が出やすく、さして珍しいことでもないらしい。でも、そこらじゅうにまるで雲のように固まった靄が浮かんでいるというのは私はあまり見たことのない風景で、神々しいというか、禍々しいというか、どこか少しゾッとするような風景でもあった。

いろんな場所に靄が固まっていたけど、どうもうまく撮れない。伝われ~

ところで、私が橋の上でゾッとして雰囲気に浸っているときも、2メートル氏は「いや~きれいですねえ」みたいな感じです。心強いぜ。

で、何があるわけでもないと分かっているけど、山屋集落への道を一応進んでみます。舗装はされているものの、大雨で流されてきた山からの泥がところどころに溜まっていて足元は時々危ない。

グーグルマップには「鵜ノ鳥ノ滝」なる滝があると載っていて少し興味を惹かれましたが、ここに挑んじゃうとかなり時間をロスしそうなので、今回は断念。あとからこの滝に行った人のブログを見つけたので読んでみたけど、だいぶサバイバルな感じの道のりでした。行かなくてよかった……。

ということで、やはり目時薬師堂が気になるので、我々は目時駅のほうへと戻りました。

高校生の青春アニメだったら、遅刻遅刻!っていいながらこの土手を駆け上ってホームに飛び乗りそう(やっちゃダメですよ)。

ところが、目時薬師堂までの道はさっきの滝どころではない超サバイバルロードだったのである。

この連載、意図せず毎回そんなことになるのである……。

 

by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。著書に、『逃北』(文春文庫)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『結婚の奴』(平凡社)など。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。新刊・アンソロジー小説集『鉄道小説』(交通新聞社)では青森の妄想上の鉄道について書きました。

 

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青い森鉄道「目時駅」
場所青森県三戸郡三戸町目時村中

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