まるごと青森

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その3①」

グルメ 特産品・お土産 青森の人 イベント・まつり | 2022-10-21 21:25

2022年9月8日(木)

これから津軽半島を巡る。

青森市内のホテルから陸奥湾に沿って走る国道280号線バイパスを北上すると、やがて「かかしロード280」の看板が見え、沿道にたくさんのかかしが立っていた。地元の実行委員会が主催するイベントで、今年は16回目だそうだ。こんな楽しい催しがあるとは知らなかったので、何だか嬉しくなって車を降りた。 

道端に並ぶ手作りのかかし

かかしにはそれぞれの製作者の名前が書いてある。幼稚園児や小学生の名前を見ていると、自分の孫のような子どもたちが無心にかかしを作っている情景が浮かんだ。孫たちとはコロナのせいでしばらく会えていない。そろそろ顔を見に行きたいな。

寄り道を切り上げて最初の目的地、青森市後潟の「金谷マート」に向かった。ここは食堂併設という珍しいスーパーだ。食堂の厨房で総菜を作り、すぐそばの売り場に運び込む。揚げ物、煮物が中心だが、ニシンの飯寿司やナスのシソ巻きといった郷土料理が並んでいる。買った総菜は食堂で食べられるので、どれにしようかと目を凝らす。およそ30種類の総菜の中から選んだのはナスのシソ巻きとちくわ納豆だった。 

作り立ての総菜など所狭しと並ぶ

ナスのシソ巻きは初めてではなかったが、店や家庭によって味が違う。このスーパーのものはシソの下の味噌がしっかりしていて、ご飯の友として合格、酒の友としても合格。私と、同行のTさんが興味津々だったのはちくわ納豆だった。見た目はちくわの天ぷらだ。と言うことはちくわの中から納豆が出てくる仕掛けだろう。粒納豆をちくわに詰めるのは難しい。ひきわり納豆に違いない。食べてみると果たしてその通りだった。ひきわり納豆に薄く味がついているようで、醤油はいらない。動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の黄金コンビ。あるようでないような組み合わせだ。そして美味い。 

津軽の郷土総菜?「ちくわ納豆」

熊本市にサラダちくわというものがある。ちくわを縦に割いてポテトサラダを詰め、衣をつけて揚げたもので、1軒の惣菜店の創作だったのが市内に広がり、いまでは居酒屋のメニューにも顔を出す。熊本のサラダちくわと津軽のちくわ納豆は、お互いの存在を知らない同好の士みたいなものだ。

さらに北上するとすぐ蓬田村になり、車は「村の駅 よもっと」へ。ここの売りの一つが鮮魚だ。売り場を覗くと生きたホタテとワタリガニを売っていた。ホタテが1キロ950円、ワタリガニが1キロ1600円。東京で殻付きのホタテを見るのはまれだ。生きたワタリガニなどはまず買えない。しかも産地とはいえこの値段。地元の皆さんはしあわせだと思う。

水槽に生きたワタリガニが

売り場で目についたのは焼き干しだった。青森県の至る所で「煮干しラーメン」の看板やのぼりを見かけるが、源流はこの辺りで昔から作られている焼き干しではないか。高価なので手ごろな煮干しに置き換わった――と、私は推測している。焼き干しといえば普通はイワシ。しかしここではアジの焼き干しも売っていた。アジの焼き干しを見たのは初めてだ。どんな出しが出るのだろう。「アジ 焼き干し」で検索するとヒットは3件だけだった。1軒は釣り好きの自作日記。2件はむつ市の海産物を扱う会社と、この「まるごと青森」のページだった。つまり青森特産、しかも極めてレアな食べ物なのだ。

アジとイワシの焼干し

「村の駅 よもっと」には食堂がある。メニューに目をやって思わず笑みがこぼれた。「ねぎみそラーメン」「ねぎしおラーメン」「みそチャーシューメン」。15枚のメニュー看板すべてがラーメンなのだ。東京のラーメン専門店をもしのぐ品ぞろえ。

さらに北に向かって着いたのが外ヶ浜町の「蟹田駅前市場 ウエル蟹」。店の前に「青森名物 本格焼干しラーメン」ののぼりが立っている。中の売り場で「平館産いわし焼干し」を発見。隣には「ほたて焼干し」もあった。なんでも焼いて干すらしい。

見た目にも美しいシャモロックラーメン

Tさんが店内の食堂で遅い朝ごはん代わりに「シャモロックラーメン」を食べている間、私は駅前の木陰で考えていた。総務省家計調査(2019~2021年)によれば、中華麺の購入額で青森市は盛岡、山形に次いで全国3位。カップ麺は盛岡に次いで2位だ。しかしこれは「購入額」であって、店で使った金額は含まれない。地元の人と話をすると、必ずといっていいほどひいきのラーメン店の話題が出る。食堂メニューの筆頭がラーメンで、「村の駅 よもっと」の食堂に至ってはラーメンしかない。最初に行った「金谷マート」の食堂ののぼりも「らーめん めし」だった。青森県民がラーメンにつぎ込むお金は相当な額になるだろう。ラーメンは青森の県民食と断定する。

蟹田といえば太宰治の「津軽」の舞台だ。友人と花見をしてトゲクリガニを食べ、リンゴ酒を楽しんでいる。場所は観瀾山。私はTさんに言った。

「予定外ですが、観瀾山に向かってください」 

観瀾山の文学碑から陸奥湾を望む

観瀾山は外ヶ浜町の名所のひとつで道路沿いに案内看板が見える。細く曲がりくねった道を上って駐車場に車を止め、展望台へと歩いた。展望台の周辺には太宰の文学碑や句碑が置かれていたが、周りは松の古木ばかり。桜の木はまばらで、しかもどれも若木だ。花見の場所はここではない。作品には確か「芝生にあぐらをかいて」とあった。ならば海沿いの平地だろうか。といってもそこはいま、海水浴場とキャンプ場になっていて手掛かりはなかった。太宰は一体どこで花見をしたのか。

この後、中泊町に寄った。津軽鉄道の終着駅、津軽中里駅に隣接して「駅ナカにぎわい空間」があり、その中で「吉田チャンコ食堂」が営業している。食堂は2年前の火災で焼失したが、今年5月にこの場所で営業を再開した。青森県に限らず、都市部を離れると飲食店が数えるほどになる。吉田チャンコ食堂は旅行者にとっても地元の人にとってもありがたい食事の場になっている。私はここで野菜みそラーメンを注文した。「地方に行くほど大盛りになる」という原則は守られていて、麺は東京感覚で言えば1.5玉。美味しかったが食べきれなかった。 

盛りの多い野菜味噌ラーメン

地場のスーパーを何軒か回って気が付いたことがある。総菜の種類が多くて、どれも小ぶりのポーションなのだ。一口サイズのものも少なくなかった。地元のスーパーに行けば、郷土料理など舌になじんだ総菜が並んでいる。少しずつ買っておかずにする。その裏に高齢化と独り暮らし世帯の姿が浮かんでくる。地域の事情がよくわかったスーパーは高齢者の拠り所なのだ。

さて、今回の「しあわせ」は何だろう。子どもたちがこしらえたかかしと、ちくわ納豆かな?

 

野瀬泰申(のせ・やすのぶ)
<略歴>
1951年、福岡県生まれ。コラムニスト。元日本経済新聞特任編集委員。著書に「天ぷらにソースをかけますか?」(ちくま文庫)、「食品サンプルの誕生」(同)、「文学ご馳走帖」(幻冬舎新書)など。

 

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野瀬泰申の「青森のしあわせ紀行 その2①」(①〜③)

野瀬泰申の「青森のしあわせ紀行 その3②」

 

その他■金谷マート
 青森市後潟平野55−2
 017-754-3536
■村の駅 よもっと
 東津軽郡蓬田村阿弥陀川汐干106
 0174-31-3115
■蟹田駅前市場 ウエル蟹
 東津軽郡外ヶ浜町上蟹田34−1
 0174-31-1112
■吉田チャンコ食堂
 北津軽郡中泊町中里亀山225−1
 090-4319-4056

掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。

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