まるごと青森

twitter facebook rss

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その3③」

グルメ 特産品・お土産 観光スポット | 2022-10-26 11:30

2022年9月10日(土)

弘前で2泊し、最初の夜は居酒屋で「たらたま」を食べた。珍味のたらをちぎって、溶き卵を落としたものだ。こんな食べ物は青森にしかない。珍味文化の象徴だ。

津軽の酒の肴にかかせない「たらたま」

2日目の夜は焼き鳥の店。店内で焼き鳥を食べている人はもちろんいるが、店に入って自分の名前を告げる人が後を絶たない。電話で予約した焼き鳥を取りに来ているのだ。例の家計調査によれば青森市の焼き鳥の購入額は3,781円で全国一。青森において焼き鳥は買ってきたものを家で食べるのが流儀ということになる。

さて津軽巡礼の3日目。

「Tさん、今日の予定は?」

「うちわ餅です」

という声とともにTさんはアクセルを踏んだ。着いた先は「戸田うちわ餅店」。小さな行列ができている。私たちの前に並んでいた女性に声をかけた。

住宅地に佇む「戸田うちわ餅店」

「いつも行列ができるんですか」

「いつもですよ、今日は短い方。普段はそこの角を曲がってずっと行列が続くんですよ」

すると別の女性が加わった。

「どうして今朝は行列が短い……そうか、今日は中秋の名月だから、みんなは餅じゃなくて団子を買っているんだ」

謎が解けて一同微笑。待たずに買えてしあわせだった。

買ったうちわ餅を歩道の腰かけの上に広げた。串に刺さった餅にたっぷりのごまだれがかかっている。餅はふんわり、甘くてごまの風味豊かなたれが絡みつく。容器の底にたまったたれをすくって口に運んだ。私がもし子どものころにこの味を知ったら、大人になっても決して忘れないだろう。親から子へと受け継がれる郷土の味はこうして生まれる。

ごまだれたっぷりの柔らかな「うちわ餅」

「うちわ餅はですね、その日のうちに食べないと固くなってだめなんです。だからお土産にできないし、送ることもできません。その日限定の幻の餅を食べるのが念願でした」

Tさんはしあわせそうだった。

「次は?」

「虹のマートに行きます」

虹のマートには思い出がある。平川市のリンゴ園を取材した帰り、女性カメラマン、いやカメラウーマンを虹のマートに案内した。私の目当ては筋子だったが、彼女は多種多様な店に興奮し、両手に持ちきれないほどの買い物をして東京に戻ったのだった。

バスセンターと向かい合った虹のマートに入る。土曜の午前中だが人でごった返している。総菜の店、和菓子店、精肉店、鮮魚店、カレーの持ち帰りが人気の店もある。洋ナシが2個で100円。天然マグロのサクが大きさによって1,000円から2,000円。客それぞれにひいきの店があるのだろう。「あの店のあれ」と買うものを決めてきた人もいるだろう。チェーン店のスーパーにはない親密感が漂っている。紛れもない市場の空気だ。

市場のような雰囲気の虹のマート

青森市内には「のっけ丼」で観光客に人気の魚菜センターがある。アウガ地下には新鮮市場、八戸にも八食センター。青森県は市場文化が健在な数少ない地域ではないだろうか。

そんなことを考えながら虹のマートをうろついていたら、珍味の店が2軒並んでいた。そのうちの1軒で、女性が珍味を大量買いしている。

「たくさん買っていらっしゃいますが、珍味っておやつですか? それとも酒のつまみですか?」

「どっちもですよ。大人はお酒のつまみで、子どもにとってはおやつです。この辺の子どもは小さいころからポテチ(ポテトチップ)より珍味ですから。今日は東京にいる娘に送るために買いにきました」

そうかポテチより珍味か。そっちの方が塩分控えめになるかも。歯も丈夫になるだろうな。店の主人にも尋ねた。

「買って行くのは地元の人? 観光客?」

「地元のお客さんですよ。観光客は買わない。買っても食べ方がわからないからね。食べ方を後から電話で聞いて来る観光客もいるよ」

「例えば、この『かんかい(氷下魚)』はどうやって食べるんですか?」

「トンカチでたたいて薄く剥いで食べる。剥いだのが隣の『開きかんかい』だよ」

そこまで硬いのなら、私の歯で無理だ。

開きかんかい

トンカチでたたくと言えば、広島県尾道市の冬の風物詩「でべら」を思い出す。タマガンゾウビラメという瀬戸内の魚をからからに干したものだ。トンカチや瓶の底でたたいて火であぶると骨まで食べられるようになる。どうやら「でべら」より「かんかい」の方が硬いように思える。津軽の子どもたちよ、かんかいで歯を鍛えよ。あごを鍛えよ。

さあ、帰りの新幹線の時間が迫って来た。弘前駅で新青森に向かう奥羽本線の電車に乗ってしばらくすると、津軽三味線のメロディーが流れてきた。えっ、これって発車ベルの代わり? いいなあ津軽は。

その日、東京の夜空に中秋の名月が浮かんだ。満月だった。

 

野瀬泰申(のせ・やすのぶ)
<略歴>
1951年、福岡県生まれ。コラムニスト。元日本経済新聞特任編集委員。著書に「天ぷらにソースをかけますか?」(ちくま文庫)、「食品サンプルの誕生」(同)、「文学ご馳走帖」(幻冬舎新書)など。

 

あわせて読みたい記事
野瀬泰申の「青森しあわせ紀行①」シリーズ(①〜⑤)

野瀬泰申の「青森のしあわせ紀行 その2①」シリーズ(①〜③)

野瀬泰申の「青森のしあわせ紀行 その3①」
野瀬泰申の「青森のしあわせ紀行 その3②」

 

生き活き市場 虹のマート
場所弘前市駅前町12−1
TEL 0172-32-6411
Webサイト生き活き市場 虹のマート
その他■お問い合わせ先
 戸田うちわ餅店
 場所  弘前市銅屋町21
 TEL  0172-32-7698

 

青森の観光・物産・食・特選素材など「まるごと青森」をご紹介するブログ(blog)です。
青森県で暮らす私たちだからこそ知っている情報を県内外の皆様に知っていただく記事をお届けします。

タグ別記事一覧

ラーメン野菜居酒屋・バーアクティビティ津軽弁缶バッジ寒海苔お盆スーパー植物#だしスイーツ魚介種差海岸お土産寺山修司カフェ迎え火・送り火ハンコ担々麺#アートまち歩き肉・卵十和田湖蔦沼八戸ブックセンターコーヒー嶽きみコケシ辛い#青森県立美術館伝統工芸田んぼアートマグロ新緑イルカプリン熱帯魚クリスマス種差#自然郷土料理三味線ご当地弘前公園陸奥湾おやき焼き鳥グランピング#エビの釣り堀ツアー歴史・文化紅葉弘前城フェリー三社大祭日記雪見温泉月見#釣り自然アートランチ八甲田尻屋埼灯台館花岸壁朝市ポップアナログレコードグルメ岩木山尻屋埼宵宮横丁露天風呂青森県、色彩食堂弘前毛豆寒立馬美術館最強毛豆決定戦妖怪ヒバブナコ太宰治灯台青森土産きのこ鮟鱇JOMONトーク鉄道津軽温泉ジオパーク津軽土産アニメあんこう万年筆りんご三内丸山遺跡白神山地自転車ガイドパッケージ買いクラフト風間浦鮟鱇ステンドグラスねぶた・ねぷた奥入瀬渓流絶景津軽弁金魚イベントハンドメイド#郷土料理果物山菜・きのこウニ缶バッジおにぎり海藻唐揚げ#お家ごはんカフェ・レストラン米・パン・穀物津軽海峡カンバッジうにぎりわかめ和栗インバウンド#料理お酒寿司カレーおみやげ岩のりe-sportsスタンプお家でシリーズBUNACO

まるごと青森Facebookページ始めました。
登録がある方はもちろん、ない方も登録して下記ページで「いいね」のクリックして、まるごと青森ブログともどもご愛顧をよろしくお願いいたします。
まるごと青森FBページ

月別記事一覧

月別一覧ページへ

青森県の暮らしぶりを訪ねる旅