まるごと青森

能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第7回)

グルメ | 2023-02-15 11:00

下北はドライブイン天国 その1

ご存じのとおり、下北半島は、長い。とても長い。

よくマサカリの形に例えられるけど、マサカリの持ち手の部分の先から、刃の根元の街(むつ市)まで行くのに電車でも車でもだいたい1時間たっぷりかかる。

そして、車で行く場合、途中に街らしい街があまりなく、かなり単調であります。

単調ということは、気分転換のスペースが多い、と言うことです。今は「道の駅」というものがとてもメジャーになりましたが、こちらには、そう、「ドライブイン」という懐かしい響きの施設がまだあるのです!しかも複数!
私はここを何度か通るうち、ドライブインが気になって、一度入りたいと夢抱いていたのですよ。

だいたいこの連載では現地で待ち合わせて、車で来た2メートル氏と合流するのですが、今回に関してはかなり早く青森市を出るということで、初めから車でスタートです。まずは延々と国道279号、眠くなりそうな道を2メートル氏が飛ばします。行く予定のドライブインを飛び越え、むつ市街地も越えて、たどりついたのは奥薬研温泉。2メートル氏オススメの、すばらしい紅葉(取材は10月)。

渓谷と紅葉。まだ色づき始め。

「いいでしょう、ここ」

あー、確かに、ここはとてもいい。あまりにもよかったので、足湯にも入ったし、森の中もちょっと探検したし、ここだけでもいろいろ書けそうです。

でも、今回は申し訳ないが、パスなのだ。今回の目的はドライブインなのだ。申し訳ない!また来ますから!

ということで、そこからまた同じ道をひたすら車で戻ります。まず寄りたいのは「ドライブイン下北」。車窓で見かけ、歴史の長そうな建物が気になっていたのです。

いいでしょう、この感じ。斜めの屋根、「下北」という字の絶妙なデザイン。最高。

着いたのはちょうどお昼時12時頃。車もけっこう停まってます。

ドライブインなので、道からよく見えるところに大きな看板があります。で、まず、ここに大きな謎が。

「朝10時▷夜3時」

しれっと「夜3時」。この場所で夜3時はかなり「草木も眠る」感がすごいと思いますが。

この店構えからしてそんなとんでもない深夜営業をしているとはとても思えないのですが、ロードサイドだとけっこうお客さんが来るんだろうか。NHKのドキュメント72時間で取り上げたくなっちゃう。

お店の中に入ると、昼時で、お客さんはかなり入っています。店内レイアウトはおおむね予想通りという感じ。緑色のリノリウム(?)の床に、いかにも食堂という感じの、硬質な印象のテーブルと椅子。椅子の座面はオレンジ色で、緑とオレンジの配色がかわいい。お客さん多すぎて写真は上げられないので、中を見たかったらぜひ行ってみてよね。

厨房の中も、ほぼ家族経営的な感じで、少ない人数で回してそう。期待したとおりの、ドライブインらしいドライブインです。

しかし、ドライブインなのに、客層だけはドライブインっぽくない。つまり、ドライブの途中みたいな人がほぼいません。でも、混んでいる。

じゃあどういう客層なのかというと、おそらく近くで工事とか作業とかをしてそうな人。そして、家が近所と思われるおじいちゃんおばあちゃん、なのです。

集落も近くにはあまりなさそうだけど、みんな車で来てるんだろうか。いいなあ、愛されてるなあ。おばさま3人連れという、ドライブインっぽくないお客が2組くらいいます。

メニューを見てみる。なんというか、謎メニューが多い。これもどこか予想通りです。

大きく書いてある「ホタテ盛合せ定食<冬季限定>」「ホタテ定食」という目玉商品2つは十分引きになっていますが、以下、謎メニューリスト行きますよ。
「肉鍋定食≪みそ味≫」

「ホタテ鍋定食≪みそ味≫」

「ホタテラーメン≪醤油味・ホタテフライ入り≫」(フライが入るのか!)

「焼肉ラーメン≪醤油味≫」……

「『肉鍋』は豚肉の味噌ベース鍋で、青森のドライブインにはよくありますよ」と2メートル氏はおっしゃる。「肉鍋」が味噌ベースではなくすき焼きみたいなところもあるらしい。青森のドライブインによくある、と言えるくらい青森のドライブインに行っているのがさすがです。

しかし、メニューにはほかに「豚汁定食」もあるのです。みそ味の豚肉鍋と、豚汁。どう違うのだろう。

「具材はほぼいっしょだけど……、何か、違いますね」

2メートル氏がまったく説明にならないことをおっしゃる。謎は深まる。

しかし私としては、ここはせっかくホタテ推しなので、ホタテに行きたい。トップに書いてある「ホタテ盛合せ定食」に行っちゃおうかな。そう思って店員さんに言うと、「ホタテは今日小さいから、(フライや焼きよりも)刺身か鍋の方がいい」とアドバイスをくれました。優しいです。
ということで、私は「ホタテ鍋定食」にしました。「ホタテ鍋」というメニューも私は初めて見ました。2メートル氏は、これまた謎めいた「焼肉ラーメン」に。

さて、ホタテ鍋が来ましたよ。鉄のお椀で、あっつあつのまま来ました。味噌ベースの汁の中に、ネギや白菜などの野菜やかまぼこと、ホタテがたくさん入ってます。これは間違いなくおいしい。しかし、生卵がついているのがこれまた謎です。鍋に落とすんだろうか?卵かけご飯にするんだろうか?謎は解けぬままです。

これがホタテ鍋定食だ!文句なし!!

焼肉ラーメンは、醤油ベースのスープにもやしやネギなどの野菜、そして豚肉がたくさん入っている。ラーメンはスープがあと引く味で、飲み干したくなる……と2メートル氏がおっしゃってたので、そうなんだと思います(なんせコロナの世の中なので、ちょっと一口下さいってのがやりにくくてね。私は飲んでいないのです。再チャレンジしたい)。

これが焼肉ラーメンだ!
熱そうな2メートル氏を激写。

さて、残った大きな謎は、こんな古い、家庭経営のようなドライブインなのに、営業時間が「朝10時~夜3時」ということです。ド深夜のドライブイン、一体どんな状態なんだろう。

ごはんを食べ終わって、会計の時にもちろん聞いてみました。

「夜、3時までやってるんですか?」ストレートに聞いてみる。

「ん?」

「看板に、夜3時までってあるんですけど……」

「3時で閉めちゃう。お昼の」

OH!!!

なんと、お昼3時まででした!

看板をよくよく見れば、「3」はシールだ。

かつては夜7時か8時か、そのくらいまでやってたんでしょうが、大幅に縮めたんでしょうね。看板に「夜」の字が残ってしまったというだけでした。謎はちゃんと解けた!ちょっとホッとしたよ。

さて、おなかをいっぱいにした我らは、なおも南下する。おなかがいくらいっぱいだろうが、次のドライブインでも何かを腹に入れるつもりである。

 

by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。著書に、『逃北』(文春文庫)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『結婚の奴』(平凡社)など。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。新刊・アンソロジー小説集『鉄道小説』(交通新聞社)では青森の妄想上の鉄道について書きました。

 

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ドライブイン下北
場所むつ市中野沢畑沢野29
TEL0175-26-2716

掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。

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