相性の良い旨い酒や料理が口中で一つに溶けあえば、ときに想像を超える美しい物語が生まれる。のんだくれとして名を馳せる筆者の、その後の人生を大きく変える発見があったのは四半世紀前、弘前市の酒蔵・三浦酒造さんに伺った際のことです。
おもてなしとして「豊盃」とともに出されたのは、生クリームを添えた自家製リンゴ煮。リンゴを追うように酒を含んだ瞬間、互いの甘味がふわりとふくらみ、これまで体験したことのないロマンティックな世界が広がりました。生クリームの存在がまた面白く、とろ~んと一体化してふくよかさを生んでいます。まるで魔法のごとく展開される融合のドラマに魅了された上、日本酒にスイーツという意外性も印象深く、酒と料理のペアリングを強く意識する節目になりました。
長い修練の日々を経て、青森を深く愛する仲間と2021年度に立ち上げたプロジェクトが「青森県、お酒と食のペアリングはじめました!」です。
県内の日本酒、シードル、焼酎、ビール、ワインに、珍味からスイーツまで多種多様なお相手を合わせて試飲試食。目指したのは、「はふん♡」とため息がこぼれたり、思わず笑顔になったり、踊りたくなったりという至高のペアリング。幾通りもの“お見合い”を介して、麗しきカップルが多々誕生しました。
その奥義をさらに広めたいとの思いから、2022年度は日本酒とシードルに的をしぼり、飲食店や宿でのペアリングの道を探ることに。皆さまにご指南いただきながら飲んで食べて飲んで食べて、あらたな見地を得ました。ご自宅の冷蔵庫の中にあるあれやこれやと酒を組み合わせるだけでも気軽にペアリングは試せますが、メニューが多彩に揃う飲食店では、一度にたくさんの組み合わせを体験できるのが魅力です。
複数の酒を飲み比べながら食べ進むだけではなく、1種類だけでも多彩な物語を味わえることを実感したのは青森市の老舗和食店「日本料理 百代」さんでした。
華々しい活躍ぶりで魅了されたのは、ご主人・浪内通さんのお気に入りで青森の銘酒の中ではキレの良さが際立つ「じょっぱり」。
イカ刺しの甘味をふくらませ、マグロの刺身やホタテのフライは後口をすっきりさせて次へと導き、トゲクリガニや倉石牛は深い旨味を引き立て。それぞれの場面で、引いたり押したりの名演に惚れ惚れしました。
一方で下北半島風間浦村の下風呂温泉郷では、むつ市の関乃井酒造さんが醸す普通酒から吟醸酒まであれこれ料理に合わせて愉快なペアリングコースを邁進。
たとえばハラワタとともに炊いたイカの煮物は、普通酒で濃厚な旨味がぐんぐん増し、吟醸酒では互いの味わいがくっきりと立ちと、お膳の小鉢だけでもそれぞれに幸せを覚える組み合わせを満喫しました。
以降は引き続き、直球から変化球まで外飲みでのペアリングの広がりと、堪能するコツをご紹介してきます。
山内史子(やまうち・ふみこ)
<プロフィール>
1966年生まれ、青森市出身、紀行作家。これまで全都道府県、世界40ヵ国を巡ってきた。昼は各地の史跡や物語の舞台に立つ自分に、夜は酒に酔うのが生きがい。著書に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)「赤毛のアンの島へ」(白泉社)など。
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日本料理 百代 | |
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場所 | 青森市本町2丁目3−11 |
TEL | 017-776-5820 |
Webサイト | 日本料理 百代 |
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