まるごと青森

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その4④」

観光スポット 体験 青森の人 イベント・まつり グルメ 特産品・お土産 | 2023-03-13 10:30

鍋焼きうどんとトゲクリガニ

2023年1月30日(月)

温湯温泉の飯塚旅館で豪華な朝ごはんをいただいて、黒石市の市街に向かった。かつての銭湯を改装した「松の湯交流館」に行くと黒石観光協会専務理事の野呂淳一さん、こみせ観光ボランティアガイドの会会長の小野せつ子さんが待っていてくださった。

「松の湯」の由来の松の木が屋根を突き抜ける

津軽地方はラーメンの爆食い地帯であり、同時に焼きそば密集地帯でもある。その中心地が黒石だ。かつて黒石の焼きそばを取材したことがある。あるパーティー会場には焼きそばを盛った大きな皿がいくつも並んでいた。湯煎していないので冷めた状態だ。ある食堂には出前用のバケツがあった。別の店は使い捨てのオードブル皿で出前をしていた。食料品店にはパック詰めした焼きそばを置いた一角があり、昼前には売り切れるという話を聞いた。黒石市民はどうも冷めた焼きそばでも平気らしいと、そのとき思った。

津軽では調理法も独特だ。専門店は別にして、鉄板ではなく中華鍋かフライパンで焼きそばをこしらえる。平川市の「味助」は中華鍋だった。女将さんと思しき女性は「この鍋でないと美味しい焼きそばはつくれないよ」と言っていた。黒石でもそこは変わらない。

冷めてもおいしい黒石やきそば

「黒石では冷めた焼きそばは当たり前ですか?」

その問いに野呂さんが答えてくれた。

「懇親会とか、ねぶたのときとか、人が集まるとオードブル皿に盛った焼きそばが出ます。冷めていますが、平気です。ソースをかけてほぐしながら食べます。本当は温かい焼きそばの方がいいので、家では作り立てを食べますよ」

「高校の売店にはパンのほかに必ず焼きそばがありました。新聞紙やビニール袋に入れてくれるのですが、当然冷めていました」

そう答えたのは野呂さんだったか、小野さんだったか。小野さんの次の言葉はよく覚えている。

「お弁当をつくるときご飯を少なくして、その上に焼きそばをのせるんです。ああ唾が出て来た。ソースはカゴメのウスターが一番!」

「観光客にお勧めするのは何ですか?」

野呂さんの返事は明解だった。

「まず焼きそば。次に中華(そば)です。中華はあっさり煮干しのスープに細ちぢれ麺です」

追いかけて小野さん。

「焼きそばはご飯と並んでほぼ主食です。パンだけではお腹がすくので一緒に焼きそばを買うと、主食が焼きそばでパンがおかずになります」

メニューはやきそばだけ

店で食べる場合は「300」とか「500」とか、値段で注文するという。ともかく黒石では焼きそばが主食の一部と認識されていることがわかった。恐るべし。

気が付けば移動の時間だった。車を飛ばして五所川原に向かう。津軽鉄道のストーブ列車に乗ることになっている。両肩から雪の壁が迫る道路を巧みな運転で走り続けるジモティーのSさんのお陰で、発車1分前に駅に到着した。切符は車内で買うことにしてホームに走る。それを見て待っていてくれた列車に飛び込むと、すでにスルメを焼く匂いに包まれた列車がゆっくりと動き出した。隣の客車は団体客が埋めているようで、そこに陣取った「津軽半島観光アテンダント」の女性がマイクを握る。いろいろしゃべっていたが、いつしか歌になった。口三味線のイントロ付き「津軽海峡・冬景色」だ。

列車内のストーブでスルメを焼く

古い車両は床から天井まで完全昭和。歌も昭和の名曲だ。外は雪、中はストーブときた。Tさんが日本酒の1合瓶を買ってきて言った。

「やっぱり、これですよね」

小さなコップに酒を注いで一口含む。

「そう、これですよ」

そうこうするうちに金木駅に着いた。ストーブ列車はここまでだ。駅を出ると観光バスが2台止まっている。隣の客車にいた人々がバスに乗り込んで行った。

私たちは太宰治の生家「斜陽館」に近いスーパーに入った。というのも道々、Tさんと話していたことがある。

「津軽だけではないかもしれませんが、青森県人て、鍋焼きうどんが好きみたいですね」

「そうそう、どのスーパーに行っても麺売り場にいろんな鍋焼きうどんを売っていますからね」

冬の常備食「なべ焼うどん」

私がシソ巻き杏を見ている間、姿が見えなくなっていたTさんが、にこにこ顔で戻って来た。何種類かの鍋焼きうどんと、専用のアルミ鍋を持っている。こんな鍋を売っているということは、やはり鍋焼きうどんは冬場の常備食に違いない。

ところでこの辺りの景気はどうなのだろう。太宰治の生家「斜陽館」を管理する「かなぎ元気倶楽部」の舛甚(ますじん)富美子さんに聞いた。

金木の象徴的建造物「斜陽館」

「去年の12月は全国旅行支援のおかげもあって、人出は多かったですよ。シンガポール、タイ、香港からの旅行者もいました。斜陽館に限って言えば、コロナ禍前の2019年の7割から8割くらいに戻りましたね。平成元(1989)年に始めた津軽三味線全日本金木大会はコロナで2年間中止していましたが、今年9月に日程を2日から1日に短縮して復活します」

それはよかった。日常が戻りつつあるようだ。

斜陽館を見学した後、私たちは近くの「太宰治疎開の家(旧津島家新座敷)」に向かった。戦争末期、戦火を逃れて東京から疎開して来た太宰一家が住んだ家が残っている。太宰が終戦を挟んだ1年4カ月の間に23作品をここで書き上げたという。

太宰ファンを魅了する「太宰治疎開の家(旧津島家新座敷)」と白川さん

疎開中の太宰を訪ねて来た数人の文学青年がいた。この家を管理している白川公視さんは後年、その元青年から当時の様子を聞き取った。書斎の文机に座った白川さんが、太宰と青年たちとのやり取りを再現してくれたのだが、一人芝居が進むにつれて白川さんが太宰その人のように思えてきた。斜陽館とセットで訪ねてみるのがよさそうだ。

きれいに剥かれたトゲクリガニwithカニ味噌

青森市に戻って夕食。ジモティーのSさんが予約してくれていた「花さか亭」のテーブルに座っていると色鮮やかな一品が登場した。トゲクリガニだ。しかも身という身をきれいに取り出して甲羅に盛ってある。そばにはカニ味噌。ただただ美しい。一体どうやると身を残すことなく剥けるのか。

トゲクリガニについては、後日取材することになっている。それまで疑問はお預けにして、この旅を終えることにしよう。

(了)

 

野瀬泰申(のせ・やすのぶ)
<略歴>
1951年、福岡県生まれ。コラムニスト。元日本経済新聞特任編集委員。著書に「天ぷらにソースをかけますか?」(ちくま文庫)、「食品サンプルの誕生」(同)、「文学ご馳走帖」(幻冬舎新書)など。

 

あわせて読みたい記事
野瀬泰申の「青森しあわせ紀行①」シリーズ(①〜⑤)

野瀬泰申の「青森のしあわせ紀行 その2①」シリーズ(①〜③)

野瀬泰申の「青森のしあわせ紀行 その3①」シリーズ(①〜③)

野瀬泰申の「青森のしあわせ紀行 その4①」シリーズ(①〜④)

 

太宰治疎開の家 旧津島家新座敷
場所五所川原市金木町朝日山317−9
TEL0173-52-3063
Webサイト太宰治疎開の家 旧津島家新座敷

掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。

青森の観光・物産・食・特選素材など「まるごと青森」をご紹介するブログ(blog)です。
青森県で暮らす私たちだからこそ知っている情報を県内外の皆様に知っていただく記事をお届けします。

タグ別記事一覧

伝統工芸田んぼアートマグロお土産津軽弁缶バッジ寒海苔お盆スーパー植物#だし青森県郷土料理三味線ご当地蔦沼寺山修司カフェ迎え火・送り火ハンコ担々麺#アートアウトドアツアー歴史・文化紅葉新緑八戸ブックセンターコーヒー嶽きみコケシ辛い#青森県立美術館自然アートランチライトアップイルカプリン熱帯魚クリスマス種差#自然グルメ弘前公園陸奥湾おやき焼き鳥グランピング#エビの釣り堀食堂ブナコ弘前城フェリー三社大祭日記雪見温泉月見#釣りヒバ津軽八甲田尻屋埼灯台館花岸壁朝市ポップアナログレコード#手帳鉄道青森岩木山尻屋埼宵宮横丁露天風呂青森県、色彩#桜りんご三内丸山遺跡白神山地毛豆寒立馬美術館最強毛豆決定戦妖怪#食ねぶた・ねぷた奥入瀬渓流絶景太宰治灯台青森土産きのこ鮟鱇JOMONトーク伝統芸能果物山菜・きのこウニ温泉ジオパーク津軽土産アニメあんこう万年筆えんぶりカフェ・レストラン米・パン・穀物津軽海峡自転車ガイドパッケージ買いクラフト風間浦鮟鱇ステンドグラス建物お酒寿司白神山地周辺津軽弁金魚イベントハンドメイド#郷土料理#青森グルメラーメン野菜居酒屋・バーカレー缶バッジおにぎり海藻唐揚げ#お家ごはん中華料理スイーツ魚介種差海岸まつりカンバッジうにぎりわかめ和栗インバウンド#料理エビチャーハンまち歩き肉・卵十和田湖アクティビティおみやげ岩のりe-sportsスタンプお家でシリーズBUNACO白神山地体験レポート

まるごと青森Facebookページ始めました。
登録がある方はもちろん、ない方も登録して下記ページで「いいね」のクリックして、まるごと青森ブログともどもご愛顧をよろしくお願いいたします。
まるごと青森FBページ

月別記事一覧

月別一覧ページへ