まるごと青森

いっとちゃんの青森酒旅 Vol.3

グルメ 観光スポット | 2023-10-11 08:00

旨し一杯で人と酒の縁を結ぶ、酒販店のあらたな楽しみ3~十和田市・八戸市編~

 

これまで青森市、弘前市と酒販店で飲む幸せをご紹介してきたが、青森県は広いし、まだまだ飲み足りないし。というわけで、南部方面に舵をきろう。

最初にお邪魔したのは、十和田市の飲み屋街近くに立つ「遠田酒店」だ。店頭の看板には、「角打ちやってます」の文字。営業開始はなんと8時30分、日曜でも10時~との表示に、欲深なのんべえは小躍りする。ぐるりボトルに囲まれた店内で飲めるのはクラフトビール、ウイスキー、ワインなど多彩だが、主人の遠田圭佑さんがなかでも力を入れているのは日本酒。飲み比べセットを選び、「豊盃」「朔田」「陸奥八仙」を味わいながらお話を伺った。

大学通り沿い、看板を目印に。日本酒の「3種呑み比べセット」500円の銘柄は、相談しながら選べる。

遠田さんが「お酒と人の出会いの場」として角打ちを始めたのは、2年前のこと。
「若い世代の多くが、日本酒に対してあまり関心がないことが気になっていました。あたりまえのことですが、おいしさは飲んでもらって初めてわかる。魅力を知らない、あるいは飲んだことすらないという方たちに、少しずつでもいいので日本酒を体験してほしいと思ったんです」

実際、日本酒は初めてという学生が、口にして目を輝かせることもあるそうだ。逆に「辛口」が好みだと話す年配客が、遠田さんとのやり取りを経て異なるタイプの酒を飲み始めるなど、酒人生の転機の場にもなっている。

あれこれ一度に試せる飲み比べセットなら、銘柄、本醸造や純米といった仕込みによる異なりも理解しやすいだろう。加えて酒器による味わいの違いも実感してほしいと、陶器やグラスも多彩に揃える。県内はもちろん、全国各地の銘柄やレアものも多く、日本酒ファンでも未知の酒と出会える可能性は高い。

遠田圭佑さん(左)との会話が、なによりの楽しみ。わからないこと、気になることは遠慮なく質問するのが口福への近道。餃子に合わせたのは、新潟県の「翔空」。ウイスキーやスピリッツも、どうぞお見逃しなく。蔵元さんを招いてなどイベントも多数開催されるので、ウェブサイトでチェックを!

看板に惹かれて訪れるなかには、十和田市内を散策中の観光客も。日々、配達で地域をまわる遠田さんは、酒だけではなくおいしい店情報の指南役としても頼りになる存在だ。旅人と地元民とのコミュニケーションが、自然に生まれることも少なくない。立ち飲みの距離感は、“袖振り合うも多生の縁”を誘発しやすいのも魅力だ。

遠田さん曰く「非現実的な空間」にはテーブルがあるが、どこで飲もうが自由。ソファ席も設けられ、その前には大きなモニターとゲーム機各種が! リビング感覚で、過ごすのもいい……でも、一日中、そこに座って、ニコニコしながら飲んでしまいそう。

地元の人気店「青森中華 YUMiO」との「コラボ餃子」も、味わっていただきたい。ビールにシフトしようかと迷っていたが、おすすめのにごり酒と合わせたところ、濃密な味わいが餃子の旨味を受けとめ、うまい、うまい、うまい! ゆくゆくは日常のつまみも増えていくとのことなので、また来なくては……と思いながら、グラス売りの「鳩正宗」をついつい追加で注文。十和田ですもの。

石鉢元さん(左)とのおしゃべりを頼りにしながら、実りのある一杯を満喫したい。4席あるカウンターに着席の場合はチャージ500円、スタンディングはノーチャージ。

続いては、八戸市。横丁を要にのんべえが行き交う繁華街の一角、長横町の「VIN+(ヴァンタス)」へ。市内で唯一のワイン専門店……と聞けば緊張するかもしれないが、ボトルが並ぶ店の奥、スタンディングやカウンター席でゆるゆるワインを楽しめるのだ。グラスワインは10種以上、棚に置かれたボトルなら100種以上から選べる幸せが待つ。

開店は15時からなので、飲み会前のゼロ次会に軽く、あるいは買い物がてらワインとともに休憩をという利用もいいだろう。ビジネスホテルの隣に位置しており、旅人にとっては八戸の夜を満喫する前のウォーミングアップのひとときに。はたまたプレゼント用の1本を選ぶ際に、実際に飲んで気に入ったものをという方もいるそうだ。

ワインの初心者が訪れることも多いと話すのは、統括店長の石鉢元(いしのはち・はじめさん)。メニューボードにはスパークリング、白、赤と、世界各国のワインが並んでいて“酒欲”がふくらむが、初めての銘柄も多く迷うばかり。
「自分の好みがわかれば、その先に枝葉を広げられる。うちでのひとときがその機会につながるといいですね」と話す石鉢さんのお導きに従うことに。まずは「すっきり系のスパークリング」として選んでもらったのは、フランスの「クレマン・ド・リムー」だ。シャンパン同様のコクがありつつ、のど越しは清々しくシアワセ♡ と同時に、お通しとして出された品に目が釘付けになる。南部せんべいと南部地方の食卓に欠かせないコムラ醸造の「なんばんみそ」? いや、なんか違うけど、ワインに合う~!! 聞けば、なんばんみそにサルサソースを合わたのだとか。フランス、メキシコ、そして青森が手を取り合った美しき融合を家でも試してみたいと心にメモメモ。

グラスワインの銘柄はその時々で変わるが、八戸ワイナリーのワインやオリジナルブランドの「NANBU TIMES」は定番。つまみは南部せんべい+なんばんみそ、シメサバのような八戸ならではの品々のほか、赤ワインにうってつけの生ハム盛り合わせなども。

超ご機嫌になっての白は、地元・八戸ワイナリーの「青森スチューベン」。程よいやわらかな飲み口で、深く魅了された。そのワインを使った、酸味穏やかなシメサバがこれまた麗しく、もちろんワインとは口中ですうっとひとつにとけあう。喜びのあまり、わたくしもとろけて、赤ワインへとコマを進める。カリフォルニア産「ジ・アトム」のスパイス感もいいのだが、店のオリジナルブランド「NANBU TIMES」の軽快な酸味と豊かな果実味にもはまり……。それにしても「青森スチューベン」といい、「NANBU TIMES」といい、青森はワインも旨いです!

2023年7月にはみろく横丁に、VIN+の姉妹店「ワイン屋台 サブログ」がオープン。そのまま流れて、腰を据えて飲むのもいいだろう。青森酒旅はいっこうに終わりが見えないが、秋の夜は長いのだからかまやしない。

なにはともあれ、飲食店やバーでも飲み比べや料理とのペアリングを体験できるが、酒販店というショップの片隅で飲むひとときは、より気軽で気張らずに過ごせることを今回あらためて印象深く思った。地元に、あるいは旅先にこういうしなやかな酒の場があるのは、実に幸せなことだ。

遠田さん、石鉢さんに共通していた、自分の好きな酒、好きな味を知って欲しいとの思いもうれしい。突破口が開けばおいしい感動は増すし、飲むことがどんどん面白くなってくる。気楽に立ち寄れて飲める酒販店の扉を、ぜひとも開けていただきたい。

 

<山内史子プロフィール>
1966 年生まれ、青森市出身、紀行作家。一升一斗の「いっとちゃん」と呼ばれる超のんべえ。全都道府県、世界40ヵ国を巡ってきたなか、昼は各地の史跡や物語の舞台に立つ自分に、夜は酒に酔うのが生きがい。著書に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)「赤毛のアンの島へ」(白泉社) など。 

【写真:松隈直樹】

 

◇店舗情報◇

店舗名 地酒とワインの店 遠田酒店
住所 十和田市東二番町2−38
電話 0176ー23ー4988
営業時間 8:30〜21:30
但し、日曜日は、10:00〜20:00

店舗名 ワイン専門店VIN+(ヴァンタス)
住所 八戸市長横町12ゆりのきビル1F
電話 0178ー81ー2016
営業時間 火〜日 15:00〜20:00
定休日 月曜日

 

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掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。

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