前回に引き続き、県内の銘酒が揃う青森市の老舗和食店「日本料理 百代」で体験した、ペアリング劇場の模様をお伝えしましょう。新鮮な魚介類の刺身をはじめ料理とともに酒を味わえば、とにかく旨い、旨い、旨い!のですが、酒との組み合わせで異なったドラマが楽しめました。
たとえば冬のご馳走、ポン酢で食べるマダラの白子は、ふっくらクリーミーさが増す「田酒」でうっとり♡ ホタテの刺身は「豊盃」で互いの甘味の輪郭がきれいに際立ち、「津軽じょんから」は軽快な後口が旨味と鮮度の良さを印象づけました。

がっぷり四つの大一番を楽しんだのは、グルメ垂涎の的であるフジツボと「田酒」。「豊盃」はその力強さをしなやかに受けとめ、やさしくまとめてくれます。ともに、酒が進んで止まらないっ! 岩場や船底に貼り付くフジツボが食材として広まったのは、30年ほど前に浪内さんが料理として提供したのがきっかけ。酒とともに口に含めば、カニの旨味を凝縮させたかのような濃厚な風味が、より鮮やかに記憶に刻まれることでしょう。

となればあれやこれやとどこまでも試したくなりますが、百代さんには「田酒」「豊盃」「陸奥八仙」などから3種選べる飲み比べセットがあるのを発見。これなら気軽に、ペアリングの実践ができますね。

この日は県内のシードル各種を持ち込ませてもらったのですが、びっくりしたのはフジツボに合わせた「テキカカ」をはじめ、リンゴの味が海の味にも寄り添ったこと。ご一緒していただいた銀座「ロックフィッシュ」のオーナーバーテンダー間口一就さんからは、マグロの刺身に「津軽」、ホタテフライに「タムラシードル」をすすめられて、これまたにっこり。シードルは食中酒としてかなりの万能選手ではないかと思いながら、口のなかは大忙しに。サラダや和え物に使ったり、あるいはカレーや焼肉のタレの隠し味にもなったりと、よ~く考えてみれば活躍の場が広いリンゴの底力の検証を、皆さまもぜひ!

日本の家庭料理でもあるトンカツ、ハンバーグ、カレーなどを受けとめてきたほかほかご飯と同じで、米からできる日本酒もまた、幅広い味と合う底力を秘めています。今回は海の幸に特化しましたが、和と洋の垣根を越えればエンドレス。お店で、ご家庭で、ご自分にとってのベストカップルを探してみてください。意外な結果も含む県産品のペアリングについては、「青森県、お酒と食のペアリングはじめました!」でご確認を。
(山内プロフィール)
1966 年生まれ、青森市出身、紀行作家。一升一斗の「いっとちゃん」と呼ばれる超のんべえ。全都道府県、世界40ヵ国以上を巡ってきたなか、昼は各地の史跡や物語の舞台に立つ自分に、夜は酒に酔うのが生きがい。著書に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)「赤毛のアンの島へ」(白泉社) など。
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