酒のイベントは出会いの宝箱~「あおもり地酒AQE号」出発!~
2023年7月8日、JR東日本が運行する「あおもり地酒AQE号」が津軽線・青森駅~蟹田駅を走った。「AQE」は西田酒造店、三浦酒造、八戸酒造、鳩正宗の4蔵が連携して限定酒を醸すユニット。「田酒」「豊盃」「陸奥八仙」「鳩正宗」の「夏酒」が味わえる上、その酒を醸す杜氏さんが一堂に会するという、なんとも贅沢な約4時間の旅だ。
そんな魅惑の列車で、筆者は案内役を担うことに。参加者約80名の9割は首都圏をはじめとする県外からの来訪で、なかにははるばる沖縄から……という前情報を聞き、まずは幸せに酔った。青森の銘酒が、全国的に熱いファンを有している証だもの。
当日、酒とともに配られた特製の酒肴セットの中身は、ホヤのこのわたのほか飲まずにいられない美味ばかり。加えて杜氏さんがそれぞれ、ご自分が醸した酒の魅力を語ってくれるのだから、もう、たまらない。皆さま、早々から美酒をぐびぐび。不肖ののんだくれである筆者も杜氏さんと乾杯を重ね、やっぱりぐびぐび。4蔵の個性は異なるものの、季節に合わせて仕込まれた「夏酒」は、いずれもすっきりした飲み心地ですうっと体にしみていく。
道中は窓の向こうの眺めもまた、酒が進むてこに。青森駅ではねぶた囃子の演奏や、大勢の駅職員の方々が手を振る姿を前にして胸がいっぱいに。蟹田駅やその前後、大漁旗を力一杯振るもてなしには、ほろ酔いで涙腺がゆるんだせいか、景色がちょっぴりかすんだ。さらに感動したのは、津軽線からの陸奥湾の眺めだ。通勤、通学の足「ガニ線」として地域の日常に馴染んでいるがゆえ、もしかしたら津軽線で“観光”という言葉は思い浮かばないかもしれない。青森市出身の筆者もそうだったのだが、青い鳥ならぬ空と海が織りなす美しい青い絵が、こんな身近にあったとは……。
蟹田駅では地元の方々のご協力を得て、「ウェル蟹」に特設会場を設置。日本酒の試飲、販売に加えて、「マツカワガレイ塩麹漬」「ほたてしょうゆマヨ」などの特産品も販売。参加者は試食を笑顔で楽しみ、「これ、旨い!」との声が広がり、土産の入った袋を持つ人が増えていく。「津軽線というローカル線で……」「蟹田という駅で……」という、旅後に語られるであろう土産話を想像してうれしさがこみあげるなか、思い出したのは五能線のエピソードだ。
ここ数年、全国各地で観光列車が人気の的だが、その先駆けは1990年から五能線で運行された「ノスタルジックビュートレイン」だといわれる。それまでの特別列車は、宴会やカラオケなどで盛り上がる、乗客の視点が車内に向く展開だったが、この列車の主役は窓の外の風光明媚。その魅力がやがて話題になり、「リゾートしらかみ」誕生につながったそうだ。地元の皆さんにとってあたりまえのガニ線の景色や、蟹田のめェもんもまた、多くの方々の心を動かしていた。そのほかのローカル線沿線を含め、青森にはまだまだひけらかしていいお宝が眠っているのではないか。
持ち帰った酒を味わった家飲みでは、杜氏さんたちの笑顔が思い出され、しみじみしみじみ、やっぱりぐびぐび。今回の列車のようにイベントは希少なレア酒を味わえる機会でもあるが、それにも増して幸せなのは酒を育む方々と直接会い、言葉を交わせること。後々、その記憶が、旨し酒にさらなる彩りをもたらす。景色をはじめ、旅の記憶もまた……。
詳細は未定ながら、「あおもり地酒AQE号」はこの先にも運行が期待されているようだ。2023年12月3日には東京・新橋で、「青森4蔵 田酒・豊盃・陸奥八仙・鳩正宗 AQE新酒を愉しむ会 in 新橋」が開催される。また青森県の酒造組合では、蔵元さんが集合する試飲会や食事付きのイベントなどを通年にわたり多数開催。酒と人を結ぶ集いの場を、ぜひ体験していただきたい。その先には、続く線路のようにあらたな酒の道が続き、さらなる喜びが待ちうけているはずだ。
<山内史子プロフィール>
1966 年生まれ、青森市出身、紀行作家。一升一斗の「いっとちゃん」と呼ばれる超のんべえ。全都道府県、世界40ヵ国を巡ってきたなか、昼は各地の史跡や物語の舞台に立つ自分に、夜は酒に酔うのが生きがい。著書に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)「赤毛のアンの島へ」(白泉社) など。
【写真:松隈直樹】
あおいもりの地酒 青森酒造組合 | |
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場所 | 青森市大字油川字柳川1番地3 |
TEL | 017-764-0040 |
Webサイト | http://www.aomori-sake.or.jp/event/ |
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