シリーズ・バス終点の旅 青森市滝沢集落(その1)
私は端っこが好きである。岬みたいにとんがったところとか、県境のような概念上の端っことか。青森が好きなのも、本州の端っこだからという理由が間違いなくある。この企画でもいきなり初回は夏泊大島というとんがったところに行ったし、ほかにも小泊、目時など、端っこらしい場所にけっこう行っている。
もっと端っこをフィーチャーしてもいいかもしれない。
ということで急に私の中で端っこ企画が持ちあがりました。「バス終点の旅」シリーズ。
鉄道の終点駅はなにかと取り上げられることも多いけれど、バスの終点を気にする人はそんなに多くないでしょう。鉄道駅の周りといえばどんなローカル駅でも何かしら見るものがあるし、駅自体にとどまることもできるけれど、たぶんバスの終点にはめっちゃ何もない。そこに腰を落ち着けることすらたぶんできない。
でも私は、市内をうろつきながら、時々見るバスの額の部分に表示されている、どこだかよくわからない終点が以前から気になっていたの。市内でよく見るけど「東部営業所」ってどこなのよ。「田茂木野」行きもよく分かんない。弘前や八戸なんか行くと、地理に明るくないからもっと気になる。「枯木平」って何?「大杉平バスセンター」ってどこよ。
というわけで、気になる終点のなかで、今回取り上げるのは「矢田・上滝沢」行きのバスです。
どこなんだ。なんでいっぺんに2か所書いてあるんだ。「矢田前」という駅は知っているけど、矢田とは違うのか。矢田前の後ろにあるのか。
例によって今回も、私だけがバスに乗り、終点で2メートル氏が車で待ちかまえていてくれるという算段です。
駅前のバス停を見ると、上滝沢行きバスは1日たった3本。あら、バス停の時刻表には「上滝沢」行きとしか書いていない。「矢田・滝沢線」の上滝沢行き、ということらしい。矢田はただの経由地なのかな。
15時ちょうどのバスが来ました。ちょっと小さめです。
当初の乗客は7人ほどだけど、そのあとのバス停でもちょこちょこ乗ってきて、車が小さいので立ち客まで出ました。こんなに利用する人がいるなんて、正直、予想外。高齢の方が多いけど、じっちゃばっちゃばかりというほどでもない。途中で乗ってきた人が元々乗っていた人と知り合いのようで、仲良くしゃべったりしていて、なんだかなごやかな雰囲気のバスです。
そしてバスはどんどん郊外に向かう。
馬屋尻というバス停の手前でバスは国道から外れて、細い道に入った。このあたりになるともうだいぶお客さんが降りていて、立ち客はいない。道はどんどん細くなる。雰囲気出てきたね。
新しい広い道を横切ってなおも細い道を進み、「次は矢田」。お、目的地の一つですね。おや……?
矢田に来て、私はバスのアタマに「矢田」が載っている理由が分かった。ただの経由地ではなかった。
ひとまずの終点とでも言いましょうか。矢田にはバスが折り返すための小円状の道があって、バスはそこをぐるりと回って元の道を戻るのでした。はー、なるほどね。こういう不思議な場所にも降りてみたいけれども、とりあえずそのまま乗って終点に向かう。
バスは同じ道を戻って、途中で太い道に入り、また細い道に入り、「下滝沢」というところで最後のお客さんが降り、終点まで乗ったのは私だけ。無事「上滝沢」に着きました。
いつものように2メートル氏が来てくれている。このへんは何もない、というかと思ったら……
「いやー、少しこのへん見ましたけど、このあたりおもしろいですねえ。ここから奥のほうにいったら滝がありましてね、そこに××があって△△で、そしたら××で……」
ちょっと待って、私より先に探検しすぎないで!「つまらないと思ったら、意外といろいろあった」っていう展開にしたいから!
あと、その滝はけっこうここから遠いです!一応バスで来たからには歩いて行ける範囲で探そうと思ってるので!
すっかり「いい見て」(この連載の略称です。今回考えました)の精神を体得してしまった2メートル氏である。まあ、志が似ているのはありがたいことだ。
さて、周りを見てみましょう。バスが折り返すための広場があるだけで、とても静かです。
山のほうに行っても人家はあまりなさそうなので、バスが来た道を戻る形で歩いてみる。
と、いきなり気になる看板を発見。
花木はともかく、「家庭読書応援文庫」がすごく気になる!でも、やってないのかな?いきなり文化の香りを感じる集落であります。
そして、すぐに鳥居も現れた。
もちろん入っていく私たち。しっかり管理されている様子ですが、社殿が思ったより簡素だ。
建物の中をのぞいてみると、さらに奥がありそう。どういう構造なのかな?
さすがに誰もいない状態で勝手に建物に入るわけにも……と思っていると、2メートル氏の声が。「うわ~!こっちでした!こんななってるんだ、うわ~」
いつの間にか2メートル氏は建物の右側を回って裏手のほうまで行っている。私もあわてて追った。すると……
社殿に入ってまっすぐ貫いた裏側にあたるところにさらに通路がつながっていて、木の檻のようなもので囲まれた何かが……
さっきの社殿はただの入り口だったのかもしれない。奥に本当の社殿(?)がある、しかも、木で囲われて、まるで牢のように……。守っているようでもあり、封印しているかのようでもあり。鬱蒼とした森に囲まれて、私たちはちょっとひんやりした気持ちになった。
バスの終点なんて果たして何かあるんだろうか?なかったら無理やりにでも見つけなきゃ!と思って始まった企画ですが、無理に探すまでもなくなんだかここはいろいろありそうだ。ゾクッとしながらも、終点の上滝沢から西側に広がる滝沢集落の探検はまだ始まったばかりである。つづく。
by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。著書に、『逃北』(文春文庫)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『結婚の奴』(平凡社)など。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。新刊・アンソロジー小説集『鉄道小説』(交通新聞社)では青森の妄想上の鉄道について書きました。
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