まるごと青森

能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第12回)

観光スポット 青森の人 | 2023-12-25 18:00

シリーズ・バス終点の旅 青森市滝沢集落(その2)~気づかってる滝沢~

まだ滝沢の旅は始まったばかり。

私と2メートル氏はバス通りを西に進んだ。バスは1日数本だからもちろん来ないし、車もほぼ来ない。いかにも青森という作りの古い民家が続く、目に優しい街並み。

そして、物置きや農作業小屋だと思うけど、もはや芸術的とも呼べるようなトタンの建物が多い。これを観賞するだけでも楽しい。

だいぶ年季が入ってゆがんでいるけど、すごく気になる三角の大きな小屋。がんばれ。
美しく青きトタン。さまざまな大きさが絶妙に配置されているのもいい。青トタンに合わせて木の引き戸も青い。
これはトタンではなく木にペンキかな?この深緑色に塗るセンスが最高。鬼瓦(?)も特徴的。

「それにしても、ここの集落はきれいですね……」

さっきから、盛んに2メートル氏が感動している。

言われてみれば、きれい。というか「整っている」って感じ。

パッと見、このメイン通りには強い特徴がないのだが、雑草が伸び放題で放置されている場所や、壊れたまま朽ちるに任せているような小屋などがほとんど見当たらない。言われてみれば、とてもきれいな村里だ。

雑草が伸び放題だったり枯れ草が散らかってたり、そういうのがないなあ。
かなり古そうで荘厳なお宅も、雑草が伸び散らかしたりしていない。きれい。
草が綺麗に刈られている。きれいだ。きれいだぞ、この村は。

1つ前のバス停「滝沢」まで来た。たぶんこのあたりが集落の中心と思われ、「滝沢市民館」という看板がある。なんでしょう?

矢印を2個も書かれたら行くっきゃないね(後ろの黄緑色の建物もすばらしいね)。
これが滝沢市民館(の一部)だ。学校……?

いかにも学校っぽい。そして、中に人がいる。ちょっとお邪魔してみましょうか。

「すみませ~ん……」

声を掛けながら上がってみると、教室のような部屋にはおじ(い)さまが5人ほど集まって向かい合い、何かしている。楽しそう。トランプだ!トランプしてる。お昼に集まってトランプ、ものすごく健康な感じがする!

トランプを中断して、一人が出てきてくれました。「これ(トランプ)やってないば案内するところだった」と言い、つまりトランプが忙しいので案内はできないけど、中は見てもいいよ、とのこと。もちろんトランプのほうが大事に決まってる。お言葉に甘え、2メートル氏と館内の廊下を進む。

中も学校っぽいよね。
あ、やっぱり。

やはりここは元・学校であった。昭和26年、戦後にできた小学校だ。2003年(平成15年。20年前)に廃校になったらしい。

体育館だった建物のファサードが非常に特徴的で美しい。
鉄棒はどういう経緯か、曲がっている。鉄棒って曲がるんだ…
ここ、校庭だったのかな。やっぱり雑草が伸び放題にはなっていない。

特に博物館とか記念館のようになっているわけではないけれど、校舎内にはなつかしい昔の写真がたくさん飾られているし、元体育館のほうにも入れる。入れる部分は掃除も行き届いていて、放置された廃校にありがちな悲しい雰囲気は全然ない。つい数年前まで学校として使っていたようにすら思える。きれいな村・滝沢の良さがここにも出ている。

古い温度計には「ほてい堂藥局 青森市古川美法三番地」とあった。住所は一体いつのものだろう。ほてい堂自体は青森市古川1丁目でまだまだ現存だ!

学校……じゃなくて滝沢市民館を出ながら、2メートル氏がつぶやく。

「トランプ、たぶん五人カンやってましたね」

「ごにんかん?」

「あれ、知らないですか。五人カン。青森でじっちゃが集まってトランプやってれば五人カンです」

……これを読んでいるのはほぼ青森の人だろうから釈迦に説法になってしまうが、五人カンとは、青森でよく楽しまれている……というか、おそらくほぼ青森県津軽地方でのみ楽しまれているというトランプゲームである。私は五人カンを知らなかった。

いや、「青森だけにある料理」とか「青森だけにある風習」なら分かるよ。「ほとんど青森(津軽)でしか行われないトランプゲームがある」って、なんなの!変でしょ!トランプって西洋のものでしょ!?青森県よ、どんだけ「個性」があるのよ!

五人カンのルール自体は私は理解し切れていないのでここでは解説しない。ウィキペディア情報で恐縮だけど、五人カンはつい3年前(2020年)までは五所川原で「世界大会」を行っていたらしい。そして、悲しいことに競技人口の減少により、大会は終了してしまったらしい!

なんてことだ!五人カン、私も覚えなきゃ。後世にしっかり伝えたい!

2メートル氏の車が置いてあるところまで2人でぶらぶら歩いて戻る途中、1台の車が追い抜いていった。そのとき、車の中から何か言われた気がした。あれ?

「さっき五人カンしてた人じゃないですかね?」

おじさまがトランプ遊びを終え、バス停のそばのおうちに車で帰る途中、私たちを見つけて声を掛けてくれたのだった。おうちの前でちょっとお話をお聞きしました。

まず、いちばん確認したいことを。

「五人カンやってたんですか?」

「そう、五人カン。ふふふ。時々例会やって、五人カンもやってる」

やっぱりそうだった。仲いいなあ。いい娯楽だなあ。

そして、2メートル氏が特にしきりに気にしていた、集落のきれいさについて。

「みんなきれい好きだから。ふっふっふ。そういうボランティアもやってる、空き缶拾いと。雪降った時もさ、バス通りだから除雪は来るの。けど、この地区の人たちは屋敷のぶん全部出すの。バカみたいだ(笑)、文句も言わずに」

憎まれ口っぽく話しているけど、つまり、ここの集落の人たちは家族が外に出られる道のぶんだけでなく、屋敷(家)の幅くらいを全部雪かきしてしまうのだと。なんてマメできれい好きでちゃんとした方々なんだ!

こうなると2メートル氏も一気に地元の憎まれ口モードになって話す。

「いや〜そうですか、そりゃすごいわ、大雪になると雪かきの回数も増えて、雪のやり場にもこまって、隣どうしでモメることもあるんですよね〜。いや~ここはきれいでびっくりしましたよ」

「みんな、気づかってます。次の例会で、お客さんがきてこんなこと言ってました、自信持とう!って言っときます。はっはっは」

滝沢集落がきれいなのは「気づかってるから」、という結論になりました。

 

そんなわけで、バス終点の旅はここで終わってもいいんだけど、このあと私たちはさらに謎の準・終点である「矢田」にも行ったのだ。まだ少し続きます。

 

by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。著書に、『逃北』(文春文庫)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『結婚の奴』(平凡社)など。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。新刊・アンソロジー小説集『鉄道小説』(交通新聞社)では青森の妄想上の鉄道について書きました。

 

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