まるごと青森

いっとちゃんの青森酒旅・冬 Vol.3

グルメ | 2025-01-31 16:33

酒も料理も旨さふくらむ魅惑の燗酒~~八戸市・むら編~

 心身温もる燗酒を求めて青森市「お料理 菜のはな」弘前市の「和料理 なかさん」歩いた旅の終わりは八戸駅前、燗への愛深しとの噂を頼りに「ほむら」。主人の小笠原一芸(かずき)さんは、燗酒の魅力をこう語る。

「燗は寒い季節に映えるだけではありません。温度によって酒の味のテンションが変化し冷酒のときには秘めていた個性姿を現す。合わせたいと思う料理変わってきますし、選択の広がります。ですから銘柄や吟醸などの酒類に関わらず、あたらしい酒が入ると様々な温度で燗を試し、料理との相性を考えています」

左は菊花ジュレが彩るアワビとタコの蒸し物と「八甲田 純米酒」、中は「銀の鴨」のモモ肉のコンフィと「七郎兵衛 純米吟醸酒」。 コンフィはローズマリーをきかせ、レバーペーストにはニンニクに加えて玉ネギやニンジン、セロリが潜む技あり。 右は「カキの田舎味噌仕立て」と「陸奥八仙 特別純米」。 日本酒はご紹介した以外にも、県内県外の銘酒を各種揃える。

 というわけでおまかせのコース料理とともに、吟味、厳選の燗酒を組み合わせた、秋の終わりのひとときの一部(幸せのごく一部)をご紹介したい。まずは菊花ジュレを添えた、アワビとタコの蒸し物。酸味のきいたジュレは、やわらかなアワビとタコの旨味の輪郭鮮やかに際立たせている。その友として選んでくださったのは、十和田市の鳩正宗「八甲田 純米酒」を40度まで上げた燗。冷酒ではすっきりきれいな味わい特徴的だが、キレの良さはそのままに米の存在感が程よくふくらんでいた。たとえるなら、冷酒が爽やかな緑まぶしい夏の八甲田だとすれば、燗酒は紅葉に萌える秋の眺めを思わせる。燗酒とともに、アワビとタはより滋味深く。やさしい余韻これまた美しい。の甘味がジュレの酸味をしなやかに受けとめ、きれいにとけあうのも楽しい。酒と魚介とジュレ。三位一体の融合は、手が止まらなくなくなる連鎖を生み、極楽、極楽。

 神郷村「銀の鴨」のモモ肉コンフィは、レバーペーストとともに。鴨の肉と脂の旨味が描く世界奥深くまことに美味なり。酒は板柳町の竹浪酒造店「七郎兵衛」を、50度の熱めで。青森県内においては、ボディしっかりめの銘柄で香りは芳醇。しかも、2018年度醸造。熟成が進んだヘビー級かと思いきや、酸が立ちつつも後味軽やか。鴨肉とはがっぷり四つの力相撲を予想していたのだが、双方の風味がすうっとひとつに馴染、エレガントなドラマが生まれている。レバーペーストもまた、胸ときめく旨さがエクセレント。濃厚な風味に潜むニンニクなどの香味野菜が存在感を増してきらめき、より鮮烈な印象をもたらす。深い、深い、たいそう深い、笑顔炸裂の喜びが込み上げる。

カウンター席なら、料理と燗酒の組み合わせの妙を小笠原一芸さんに伺う楽しみも。料理はおまかせのコース8000円~。
鉄瓶は開店以来、20年近く美酒を温めてきた働き者。

 津軽味噌のきれいなコクがカキの旨味と同調するカキの田舎味噌仕立ては、その名とは裏腹に洗練された世界が構築されていた。競演は40度の八戸酒造「陸奥八仙 特別純米」冷酒では隠れていたほんのりクリーミーでなめらかな味わいと、洋酒をも彷彿とさせる艶やかな旨さがあり、ふくらみを増した酒の味噌やカキの旨味を包み込む。陸奥八仙の酸が、味噌と合うと思います」とは、小笠原さん。いや、合いすぎます! ゴボウやセリ、ネギも、とともに口に含めばそれぞれ風味がよりくっきり日頃から冷酒で親しんでいる方なら、陸奥八仙のあらたな魅力にふれる機会となるだろう。

 南部地方の酒は津軽地方と比べてきりっ、すっきりとしたタイプが多いものの、八甲田陸奥八仙ともに、燗でやわらいだふくっとした表情もいい。凍てつく風吹く外から家に帰ってきてストーブにたると、思わず顔が緩むのと同じか。もちろん、冷や(常温)や冷酒でも満ち足りるのだが、七郎兵衛を含めいずれも燗によって後味に絶妙なキレが生まれているのも興味深かったゆえに酒が進み、箸進むが悩ましいのだが

小笠原一芸さんは寒さ増す季節には、プライベートでも燗酒を楽しんでいるという。ハレの日にもうってつけな上質な店でありながら、スタッフの長谷川貴子さん(右)、佐藤玲菜さんの笑顔ともてなしが、肩肘を張らずにすむ和んだ雰囲気を醸す。
燗酒満喫の後は、締めの土鍋ご飯。この宵は、たっぷりの穴子とごぼう入り。

おすすめの酒をとのリクエストがあれば、できるだけ料理に寄り添える銘柄を選ぶようにしています。は味に深みのある食材や料理が多分、組み合わせ楽しみは深まると思います

 互いが寄り添う物語に圧倒され、早々に徳利が空になり陸奥八仙のおかわりをお願いしたところ、あら、スピーディ? 秘密はコンロに置かれた、南部鉄器の鉄瓶だった。熱伝導率が高いため、すばやく燗つけられるという。常に酒を欲するせっかちなのんべえとっては、なんともうれしい限り。締めの土鍋ご飯まで巧みな融合を堪能し、心身は幸せ色にぬくぬく。この店を目的として八戸を訪れ、新幹線の最終で帰るもいるという話を聞き、心からうらやましく思う。

 同じ青森県内でも、たとえば積雪量の多い津軽地方としばれる南部地方では、冬景色は異なる。酒食材、料理、地域ごとに実にバラエティ豊か。となれば燗酒との融合も、多種多様。だから青森は、旅するのが面白い! 燗酒と美味口中繰りひろげる感涙もののドラマこの冬、ぜひとも堪能いただきたい。


<山内史子プロフィール>
1966 年生まれ、青森市出身、紀行作家。一升一斗の「いっとちゃん」と呼ばれる超のんべえ。全都道府県、世界40ヵ国以上を巡り、昼は各地の史跡や物語の舞台に立つ自分に、夜は酒に酔うのが生きがい。著書に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)、「赤毛のアンの島へ」(白泉社) など。

【写真:松隈直樹】

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ほむら
場所青森県八戸市一番町1丁目1−30
TEL0178−27−2632

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