まるごと青森

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その8③ ナット昆布とカニ三昧 」

グルメ | 2025-04-09 09:00

(前回:野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その8② ブナコでハッピィ」)

2025年2月4日(火)   ③ナット昆布とカニ三昧

ハッピィ百沢温泉を後にして弘前市街に戻る途中、農業生産法人「ANEKKO」が運営する直売所「野市里(のいちご)」に寄った。ここはお盆の前後に旬を迎える嶽きみ(トウモロコシ)を買い求める人々で賑わう。岩木山麓の嶽地区で産する糖度の高い嶽きみは全国からネットなどで注文が入るほど人気が高い。閉店間近だったので慌ただしく見て回ったのだが、私が探していたものがすぐ見つかった。「ナット昆布」だ。

前の晩、青森ジモティーと居酒屋に行ったのだが、お通しで出たのが粘り気のある黒い液体に浸かったナメコと小松菜だった。一口食べてみたら未知の味がする。未知だがすこぶる美味い。思わず液体を一滴残らず飲み干した。
ジモティーが笑顔で教えてくれた。
「ナット昆布ですよ」
「お土産に買って帰りたいです。どこで売っていますか?」
「どこのスーパーにもありますよ。あしたスーパーを覗いてみてください」
だが、スーパーに寄るまでもなく、ここで手に入った。

ナット昆布は細かく刻んだ昆布で、少量のお湯か水に浸す。水分を吸った昆布が膨らんで、箸でかき混ぜると納豆のような粘りが出てくる。だからナット。多分、材料はがごめ昆布だろう。醤油や出しを加えれば、山菜や野菜の味を引き立ててくれる。
パッケージに「この製品は第7次南極越冬隊の食糧として採用されました」と印刷されている。第7次越冬隊は1966~67年にかけて18人で越冬している。その報告書の「食糧」の項を読んでみた。
精米 1日11.2kg
肉 1人1日平均100~150g
野菜類 1人1日200g前後使用
海藻 朝食に喜ばれた
とある。その海藻の中にナット昆布が含まれていたのだろう。
越冬隊の食糧は効率よく集荷するため、出発地点である東京で調達されたはずだ。なのにどうしてナット昆布のようなローカルなものが採用されたのか。津軽出身か津軽ゆかりの隊員がいた可能性がある。
私は東京に戻って、説明書きの通りに水でふやかしてナメコとともに食べてみた。料理のレパートリーが増えた気がした。味噌汁に入れると、味噌のコクと相まって、うま味が一段と増す。

旅に戻ろう。ナット昆布を買った足でホテルにチェックインし旅装を解いた。一休みして居酒屋の「まつや」の客となる。

階段を上った先に、座敷だけの客席が並んでいる。各種メニューが揃っているが、注文したのは「おまかせ」だ。日替わりで何が出てくるかお楽しみ。
ほどなくお盆にのったいくつかの料理が運ばれてきた。女将さんらしい女性がテーブルの上に並べていく。

大根の漬物。ナマコ。うなぎと大根の煮物。カニ身入り卵焼き。そして身をほぐしたカニ。遅れて刺身もやってきた。
うなぎと大根の煮物は手が込んでいる。うなぎはかば焼き風の薄味で仕上げてあり、同じ器に盛られた大根は別の味付けだ。つまりそれぞれに調理した「炊き合わせ」ということになる。うなぎの美味さは当たり前として、大根がいい。硬くもなく柔らか過ぎでもでない。適度な歯ごたえを残しながら、ここまで味をしみ込ませるのは容易ではないはずだ。

  カニはズワイガニのオスとメス。それにタラバガニが加わって、1度に3種類のカニを味わえる。しかもほぐしてあるので、箸でつまんで口に運ぶだけ、というのがありがたい。これで2500円とはなんとコスパがいいことか。
件の女性は配膳しながら言った。
「うちは1年中、カニを出します。季節によって種類や産地を変えるんですよ」
青森県民は、特に津軽の人々は隠れたカニ好きだと思っていたが、やはりそうなのか。
本日は喫茶店のモーニングから始まって、カニ三昧で終えた。あしたはどんな日程になっているのだろうか。Yさんからもらっている旅程表を見ると、またしても喫茶店のモーニングサービスからのスタートだった。

 

野瀬泰申(のせ・やすのぶ)
<略歴>
1951年、福岡県生まれ。食文化研究家。元日本経済新聞特任編集委員。著書に「天ぷらにソースをかけますか?」(ちくま文庫)、「食品サンプルの誕生」(同)、「文学ご馳走帖」(幻冬舎新書)など。

◇店舗情報◇

店舗名 直産所 野市里(のいちご)
住所 青森県弘前市宮地川添77-4
電話 0172-82-1055
営業時間 10:00〜17:30
店舗名 まつや
住所 青森県弘前市本町72-1
電話 0172-32-8787
営業時間 17:00〜23:00(定休日 日曜)

 

 

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タグ: 弘前市

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