シリーズ・バス終点の旅 津軽半島空白の地「元宇田」の旅 入門編
いろんなバス終点に行ってきたが、今回は、外ヶ浜町(元・平舘村)のバス終点「元宇田」に行きます。
青森から蟹田を経て三厩に行くJR津軽線(蟹田〜三厩間は現在休止中で、廃線予定。悲しい)は、青森から蟹田までは海岸を通るが、蟹田から今別まではショートカットして内陸側を走る。ショートカットされちゃってるのが、旧・平舘村ゾーンである。で、蟹田から旧・平舘村に行くバスの終点が「元宇田」である。
どんなところか、前段で少しは説明したいのだが、正直、調べてもほとんど元宇田の情報がない。いつも「何もないところ」に行っているこの連載だけど、今回も「何もなさ」ではかなり上位に来るんじゃないかと期待大である。

ということで、まずはJR津軽線で蟹田駅へ。駅前のバス乗り場はちょっと離れているけど、大きな看板があるので分かりやすい。町のコミュニティバスなので小さめのバスかと思ったら、ド派手なピンクのでっかいバスが停まっていてびっくりする。

乗客は5人程度。なんのアナウンスもなく静かにバスは出発する。
このバス路線は、基本的にバス停がなく、例によって「フリー乗降制」で、降りたいところで言えば降ろしてくれるというものである。途中、「すいません!橋のところで止めてもらっても大丈夫でしょうか」と乗客が大きな声で言ってバスが停まったり、何も言ってないのにバスが停まってじっちゃが降りたりしていた(小さな町だし、運転手さんもだいたい客の顔がわかってる)。
外ヶ浜町は漁業が盛ん。途中、陸奥湾に面した船溜まりがある。両側が海になっていて気持ちよく、山側に船が並んでいて不思議な景色。

木曜の昼。国道だけど、すれ違う車がほとんどない。途中、小さな集落に謎の螺旋状のタワーのようなものが見え、とっさに写真を撮った。あわててネットで地図を見てみても特に何も載っていない。え、あれは何だったの?(この件は次回に続きます)

途中でバスは旧道らしき道に入る。大型バスにはかなり細い。

路傍に、倒壊した建物(倉庫等)がかなり多い。主がいなくなって使われず、雪でつぶれたんだろうなあ。ちょっと複雑な気持ちになる。
旧平舘村を縦断し、途中で乗客は私一人だけになり、そしてバスはアナウンスも何もなく終点「元宇田」らしきところに着いた。

「何もない」という言葉はおもしろみがないのであまり言いたくないのだが、やっぱりここは本当に「何もない」が似合う。民家は……、とりあえずここが最寄りと言えそうな民家は、一つもない。周囲数百メートルに民家がない。というか建物がない。


で、ここで、担当氏と合流であります。
今回の担当氏は初登場、陸奥桜(むつざくら)と瑞の富士(ずいのふじ)であります。
瑞の富士は無類の大相撲ファン。元から自分自身に瑞の富士という四股名をつけている。ついでなので、特に大相撲ファンでもないもう1人の担当氏にも私が陸奥桜という四股名を命名してしまった。力士ではなく、女子であります。
「お会いできてよかったです!場所が分からなくて困りました!」
タクシーでやってきた陸奥桜がホッとしている。こんな何もない場所で迷いようがない気がするが、これには訳があった。
私は事前情報で「元宇田」というバスの終点で待ち合わせましょう、と言っておいた。しかし……、「元宇田」というバス停がないのである。

相当年季の入ったこれは、たぶんバス停である。しかし上の部分には、何も書かれていない無地の板が貼ってあるだけだ。かつてはちゃんとバス停名が書いてあったのかもしれない……。

ここはいまフリー乗降の路線だから、そもそも路線上にバス停自体がない。終点のここだけはバス停のような謎の物体があるけれど、「元宇田」とは書かれていない。そして、下の時刻表のところには、「平舘バス回転所」という違う名前が書かれているのである。
まあ、名前なんてなくたってやっていけるバス停なんでしょう。なんとなくそれらしいからここなのでは?という勘でたどりついてくれた2人の担当氏に大感謝です。
ここは蟹田から来るバスの終点だけど、実はここからさらに今別町巡回バスに乗り継いで、今別方面に行くこともできるらしい。乗り継ぎの時間も考慮されているようだけど、しかし……自販機もないこの場所でバスを待つのはなかなかハードじゃないかなあ。

さて、ここから1キロ弱戻ると民家が現れ(ここが元宇田の集落)、さらに同じくらい歩くと、聞法寺というお寺が現れる。日蓮宗宇田山聞法寺。

お寺の下には、船に乗ったお坊さんと船頭さんの石像がある。波間からお魚がたくさん顔を出していてかわいい。このお二人は、鎌倉時代の僧・日持上人と船頭の蠣崎甚兵衛さん。

石像の土台にある説明によれば、日持さんは地元静岡から北へと伝道に出て、このあたりの石崎という浜から蝦夷地へ渡ることにし、その際に船頭として地元の蠣崎甚兵衛さんを採用し、見事に渡れたそうです。やるじゃん、甚兵衛。
それで、漁民たちに親切にしてもらったお礼に海上に向かって法華経を読んだら、見たこともない魚が大量に捕れたんですって。で、これは法華の偉いお坊さんがくれたお魚だからということで、その魚はホッケという名になったそう……え、ホッケ!ホッケの由来の方にこんなところで出会えるなんて(あくまでも一説ですが)。急に身近な人に思えてきたよ、日持さま。
ちなみに、元宇田の集落はこんな感じである。私が好きな、海風にさらされるたくましい家々の姿。



歩いていたら、とても気になるデザインのお堂があった。

が、その前に豪快に倒れているこれはもっと気になった。かなり年季の入った木製の何かである。先端についた丸い板……これもバス停……?

瑞の富士が勇気を持って持ちあげた。
「……。何も書いてないですね……」

なんと地面のほうにも跡があるから、そうとう放置されていたはずだ。やっぱりこれもさっき見たように、かつてのバス停だったんだろうか。正解は不明である。
と、ずいぶん長くなってしまったけど、ここまではまだイントロなのでした。やはりもっとハードな道をつきすすまないことにはこの連載ではない。次回に続く。
by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。著書に、『逃北』(文春文庫)、『結婚の奴』(平凡社)など。アンソロジー小説集『鉄道小説』(交通新聞社)では青森の妄想上の鉄道について書いている。新刊『ショッピン・イン・アオモリ』(東奥日報社)が大好評発売中!
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