まるごと青森

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その9②」おでんとクレオパトラ

グルメ 体験 | 2025-11-21 09:00

(前回:野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その9① 八甲田で「長生きの茶」」)

雨と霧に包まれた八甲田を背に青森市街に戻った私と同行のSさんは、日暮れて「横丁」という店の客となった。昭和28(1953)年に暖簾を掲げた老舗で、青森おでんが名物だ。


予約していたカウンター席からおでん鍋を覗きながら、時折メニューを見やる。
「たつ」は白子のこと。「ゆでらっか」は茹で落花生で、「赤玉スライス」は紫玉ねぎ。

「この店はやはりしょうが味噌ですか?」

「うちはしょうが味噌は5月から9月までなんです」

青森のしょうが味噌おでんは「寒い冬に体を温めるために始まった」と聞いていたが、この店は夏場にしょうが味噌だ。しょうが味噌=寒さ対策という説を少し疑う。

「出しは鶏ガラ、昆布、シイタケです」

鶏ガラを使っているところが珍しい。ラーメンのスープみたいな取り合わせだ。美味いに決まっている。

「ツブと凍み豆腐をください」

「ツブと言ってモスソガイのことです」

主人はこう言って、一般的なツブガイではないことを教えてくれた。
モスソガイは漢字で書くと「裳裾貝」。軟体の足の部分が殻から大きくはみ出して、着物の裳裾のように見えることからこの名が付いたそうだ。青森県では「ツブ」と地方名で呼ぶ。食べてみると身は軟らかく、出しの味に包まれている。

そのとき舌が未知の食感と味をとらえた。卵だ。貝の卵なんて初めてだ。タコの卵を干したものを兵庫県明石市では「海藤花(かいとうげ)」と称するが、貝の卵にもこんな美しい名前を付けてあげたい。

続いて凍み豆腐。これが大変な傑作だった。凍結乾燥させた豆腐には無数の微細な穴ができていて、その穴という穴から出しがしみ込んでいる。一口食べて出しのうまみ。また一口食べて出しのうまみ。どこまでいっても均等なうまみが途切れない。
「酸ヶ湯でつくったものです。あちらでは1月の大寒のころに豆腐を干すんです」
豪雪と吹雪の中で、この凍み豆腐はできてきた。

一夜明けて21日午前9時、開店を待って喫茶「クレオパトラ」に入った。青森駅から延びる新町のアーケードが尽きようとする場所で56年前から営業している。

喫茶店というけれど、外観、内装とも豪華絢爛だ。店内にはクラシックのピアノ曲が流れ、店の奥には薪ストーブが置かれている。ストーブの横と窓の外に薪が積まれているから、寒い日にはこのストーブが客の体と心を温めてくれることだろう。


「サラサラサンド」というのを頼んだ。トマトとグレープフルーツのジュースにゆで卵、サラミ・セロリ・レタス・キュウリを挟んだサンドイッチ、それにコーヒーで1000円也。優雅な朝食になった。

さて出陣。紅葉見物を続行する。まず目指したのが黒石市の「中野もみじ山」だ。山全体が紅く染まると露店やキッチンカーが出てお祭り気分を醸し出す。夜はライトアップされ、息をのむ美しさで知られている。ところが着いてみれば山は緑色のままだった。例年だと「そろそろ」の景色になっているのだろうが、今年はこれかららしい。
では「城ヶ倉大橋」はどうだろう。一応、青森市内なのだが、地図を見れば深山幽谷の趣。期待できるかもしれない。
車が橋のたもとに到着すると、大型バスや貸し切りタクシーが何台も止まっている。私とSさんは車を降りて、ほかの観光客とともに橋を渡り始めた。その途端、「あっ」と声が出そうになった。


「山粧う(やまよそおう)」という秋の季語はこのことか。眼下を流れる城ヶ倉渓流を底にして、V字型にそびえる山々の全身が赤、黄色、緑のパッチワークになっている。空は雲に覆われているけれど、灰色の背景がむしろ好ましい。橋の長さは360メートル。橋の真ん中辺りから見下ろすと、渓流は122メートル下にある。


そんな景色を脳裏に刻むのもいいが、ここは写真だ。昔はフィルムのカメラ。後にデジカメになり、いまはスマホで何枚でも撮れる。ゆっくり歩きながら橋の右から左から絶景を撮影した。
前日の八甲田ときょうの中野もみじ山は残念だったが、城ヶ倉大橋をもって目的達成としたい。

帰路、新青森駅で駅弁を買った。「津軽めんこい懐石弁当 ひとくちだらけ」という弁当だ。新幹線の中で開けてみると、御覧の通りのビジュアルだった。


上段左から「ほたて飯」「くわ焼」「すしこ」「味噌おでん」「煮ホタテ」「カボチャ餅」
2段目左から「イナリ寿司」「牛バラ焼」「鮭の飯寿司」「煮物4点」「茄子しそ巻き「黒石焼きそば」
3段目左から「しじみ御飯」「豚みそ漬」「赤カブ漬」「手作り卵焼き」「ホタテ唐揚げ」「酢ホタテ」
下段左から「若生おにぎり」「牛源タレ焼」「きゅうり漬」「菊のおひたし」「鶏肉塩焼」「イカメンチ」
以上、24点だった。税込み1500円(11月から1700円)。最近、メディアへの露出が増えているらしい。

 

野瀬泰申(のせ・やすのぶ)
<略歴>
1951年、福岡県生まれ。食文化研究家。元日本経済新聞特任編集委員。著書に「天ぷらにソースをかけますか?」(ちくま文庫)、「食品サンプルの誕生」(同)、「文学ご馳走帖」(幻冬舎新書)など。

 

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掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。

タグ: 青森市

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